令和2年度JCOMM賞の受賞者

JCOMM実行委員会では、令和2年8月末までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、令和2年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。本年度はプロジェクト賞2件、マネジメント賞2件、技術賞1件となりました。

受賞者の方には、第15回JCOMMにて表彰を行いました。


マネジメント賞

ファジウォーカープロジェクト

岡山大学氏原岳人研究室/岡山大学高岡敦史研究室/国土交通省中国地方整備局岡山国道事務所/(株)ファジアーノ岡山スポーツクラブ/西日本旅客鉄道(株)岡山支社/岡山電気軌道(株)/両備ホールディングス(株)両備バスカンパニー/(株)iプランニングKOHWA/HIDETO SATO DESIGN

 

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―受賞概要― 
 このプロジェクトはJリーグ・ファジアーノ岡山の試合観戦者によるスタジアムまでのアクセスを、自家用車から公共交通・自転車、徒歩等に転換してもらうことで、渋滞緩和や地元経済の活性化、環境負荷の低減、健康増進等を目指して始まった。2016年に実行委員会をたちあげて事前調査を実施し、2017年より行動変容のためのモビリティ・マネジメント(MM)を毎年展開している。
 メンバーは岡山大学、国土交通省(岡山国道事務所)、ファジアーノ岡山、鉄道・バス事業者、まちづくり団体、デザイン会社等から構成されている。具体的な取組は、①行動プラン法によるワンショットTFP、②プロジェクトHPやSNSの開設、展開、③プロモーション動画を用いたスタジアムの電光掲示板等によるPR、④国道情報板を用いた標語の掲示、⑤コンセプトブックや特製バッジの製作・配布、⑥スタジアムでのブース出展、⑦駅舎、鉄道・バス・路面電車での広告展開、⑧ファジアーノラッピングバス(ファジバス)の内装リニューアル及び試合時刻に合わせた運行、⑨バス利用促進リーフレットの作成及びファジバス運行ルート沿線等での配布、⑩スタジアムでのプロジェクト横断幕の掲出、⑪地元商店街でのイベント開催等である。  本プロジェクトでは、スポーツMM特有のサポーター心理に働きかけるために、全ての施策のデザインをチームカラーに統一し、洗練させるとともに、徒歩や公共交通等でスタジアムを訪れるサポーターを「ファジウォーカー」と命名しブランディングを図った。
 2019シーズンには、1試合の自動車利用者の転換率は約1割(転換経験者は約2割)、岡山駅からスタジアムまでの歩道(ファジロード)の歩行者も増加傾向にあり、地元経済への効果も期待される。さらに岡山市民を対象としたWeb調査によるとプロジェクト認知率は35%と比較的高く、岡山市全体を巻き込んだプロジェクトに成長しつつある。

―JCOMM実行委員会から―
Jリーグサッカーを対象として、交通問題のみならず商店街の活性化や健康増進など多様な目標を設定し、定量的に効果を把握しながら、年々改善している点が高く評価されました。特に、地域のステークホルダーと共に目標実現に向けて戦略的に取り組み、安定的・創造的な事業運営体制を構築し、感染症をはじめ様々な対応を行っている点が、他地域の模範となることから、JCOMMマネジメント賞として選定されました。

 


マネジメント賞

鏡山循環バスを核とした地域コミュニティの活性化

京都市山科区鏡山学区自治連合会/京阪バス(株)/京都市山科区役所

 

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―受賞概要― 
 鏡山学区は,滋賀県から京都府への玄関口であるJR山科駅から,徒歩20~45分程度に位置する。当該地域では昭和46年から京阪バスが運行されていたが,モータリゼーションの進展による深刻な乗客離れのため,平成8年に廃止された。しかし,その後高齢化が急速に進展し,廃止後10年を経過した頃から,バスの復活を求める声が高まり始め,そこで鏡山学区自治連合会と京阪バス株式会社が話し合いを重ね,平成25年から鏡山循環バスの1日2便の実証運行を始めることとなった。
 しかし,運行開始当初の平均乗車人数は10人/便で,目標の半分程度であったため,危機感を強めた自治連合会はMM活動に乗り出すこととなった。「お試し乗車券」や「便利ダイヤ」の配布,各種催しでの啓発活動など多岐にわたる活動の結果,平成25年度末には目標の20人/便を達成し,平成27年3月から鏡山循環バスは本格運行に移行することができた。
 本格運行開始後は「バスのおかげで気兼ねなく外出できる」「外出の機会が増えた」などバスの便利さを実感する声と共に,増便を求める声も上がり始め,自治連合会は従来のMM活動を継続するとともに,さらなる展開を始めている。平成30年度からは毎年鏡山小学校3年生の総合学習の時間に,鏡山循環バスの成り立ちやMM活動についての授業及び体験乗車を行っており,また今年度は5年生の児童による子ども車内アナウンスを録音し,現在車内には子どもたちの元気な声が流れている。これらの活動もあり平成29年に始まった昼便の実証運行は本格運行に移行することとなった。
 鏡山学区のMM活動では顔見知りの地域役員による啓発活動,小学校との連携など顔の見える活動を大切にしてきた。その結果,広く地域コミュニティの活性化,濃密化にも好影響を及ぼしている。高齢化が進む中で,住民みんなで,バスの大切さを理解し,バスを利用するという行動を通して,住民主体のまちづくりの意識が芽生え,醸成されている。

―JCOMM実行委員会から―
地域住民自らが一丸となって、バス利用促進を通じた地域コミュニティの活性化に取り組んでおり、7年以上も地域の様々な主体を次々に巻き込みながら進めている点が高く評価されました。特に、中学生を巻き込む、小学校でMM教育を実践するなど、地域の将来を考える契機を創り出しており、地域住民自らによるMM実践事例として他地域のお手本になることから、JCOMMマネジメント賞として選定されました。

 


プロジェクト賞

小山市コミュニティバス おーバス MMプロジェクト

小山市役所/谷口綾子(筑波大学)/片桐暁((株)テーブル)/斎藤綾(AYA DESIGN OFFICE)/(一財)計量計画研究所

 

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―受賞概要― 
栃木県小山市では、2007年に民間路線バスが撤退(当時年間利用者15.2万人)以来、市が赤字補填の予算を投じて、コミュニティバス「おーバス」を運行している。赤字経営のため大幅な増便や新路線開業は難しく、バスの本数は1時間に1本程度、早朝・夜間便はなく、真に便利なバスとは言い難く、利用者減の負のスパイラルに陥っていた。この状況を打開するため、おーバスの利用促進に取り組んだものである。
・構造的方略:おーバスの増便(4路線)・新規路線開業(2路線)・バスロケ導入に加えて、従来定期券の7割引と超低価格、かつ、おーバス全線を対象にした定期券「noroca」を導入した。
・心理的方略:バスを使ったライフスタイルの提案を念頭に3号編成の生活情報タブロイド紙「Bloom! 」を、毎号市内全戸(5.3万世帯)等に配布し、合計18万部発行、さらにSNS等で、おーバスの情報発信を行った。

<プロジェクトの効果>
・ 2017年度バス利用者約66万人が2019年度は約73万人へと増加した。
・noroca導入で、定期券保有者が2.2倍に増加し、コロナ禍の逆境下で26万円増収、15,404人増加を達成した(2018年度・2019年度比較)。
・Bloom!配布で、市民のnoroca認知率30%上昇、おーバス・小山への愛着が上昇した。加えて、副次効果として苦情の電話等が激減、苦情件数がBloom!配布前3日に1件から、配布後1ヶ月に1件未満となった。

<本プロジェクトの特徴>
・バスの運賃値下げと収入増加を両立し、バス利用者増加を達成した点
・バスを使うライフスタイルを提案することを念頭に生活情報タブロイド紙Bloom!を市内全戸配布している点
・全市民対象の大規模MMにおいて「生活情報タブロイド紙」というメディアが、情報に個別性・双方向性を付加し、コミュニケーション施策として成立する可能性があることを示した点
・ブランディング、デザインに重きを置いて、企画段階からクリエイティブディレクター、デザイナーが参画した点

―JCOMM実行委員会から―
デザイン性に優れたMMツールを含め、完成度の高いMMプロジェクトとして高く評価されました。またバス運賃の値下げと収入増加の両立が期待できる取り組みであることから、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。

 


プロジェクト賞

熊本県内バス電車無料化社会実験と検証

九州産交バス(株)/溝上章志(熊本大学大学院)/大屋誠(ヤフー(株)データソリューション事業本部)/太田恒平((株)トラフィックブレイン)/熊本市都市建設局都市政策部交通政策課・都市整備景観課

 

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―受賞概要― 
 SAKURA MACHI Kumamoto(※1)の開業にあわせ、「公共交通の利用促進」、「渋滞緩和」、「中心市街地の活性化」を主な目的とし、2019年9月14日に「熊本県内バス電車無料の日」を実施した。この取り組みでは、空港リムジンバス、県外乗り入れ便、JR等を除く、県内ほぼすべてのバス、市電・電車の無料化を実施。複数の公共交通機関が連携し、始発便から最終便までの4,694便を対象とする国内でも例のない規模の取り組みとなった。
 この取り組みによるさまざまな効果について、ビックデータ等を活用した検証を行うため、産学官連携のプロジェクト「SAKURA MACHI DATA Project」を発足。関係機関からの提供データや当日のヒアリング結果を基にしながら、ヤフー株式会社が提供するサービス「データソリューション」などを活用して分析を行った。
 本実証実験で検証したい仮説は、「公共交通機関の料金を無料にすることは、利用者にとっては魅力的であるが、事業者にとっては収入の減少により交通事業者単体の収支は悪化する。しかし、それによって人が移動し、街が活性化することで、地域としては費用の何倍ものリターンがあるのではないか」である。これらを検証するため、公共交通の利用促進、中心市街地におけるにぎわい創出、移動の活発化、経済効果、環境効果を計測し、評価した。
 今回の取り組みにより、当日の公共交通機関の利用者数は2.5倍に増加し、中心市街地の交通渋滞の減少や、商店街の来訪者数も1.5倍増加し、市街地の回遊性の向上や観光による県内全域の移動の総量増加が見られた。また、イベントによる経済効果5億円(費用は約25百万円)、二酸化炭素削減効果を発現した。
 運賃無料化による公共交通機関の持つポテンシャルを引き出す施策を打つことで、商業施設・中心街の活性、道路の効率的利用、観光地の活性など、さまざまな好循環が起きることが実証された。また、官民のデータを組み合わせることで、地域活性施策の提案の根拠、効果の定量的な推計が可能であることを検証できた。この結果を全国へ発信するとともに、公共交通の利用者増加に繋がる施策についても幅広く検討を進め、さらなる活動強化を図りたい。
※1 2019年9月14日に開業した、熊本市中心部に位置する桜町再開発事業の商業施設。熊本桜町バスターミナル(乗降場29バース)や熊本城ホールを併設する。

―JCOMM実行委員会から―
市内全域での公共交通無料化実験というインパクトのある施策を実施するとともに、多面的な分析を通じて公共交通の潜在需要を定量的に分析している点が高く評価されました。また公共交通料金のあり方について一石を投じた取り組みであることから、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。

 


技術賞

健康まちづくりのための行動変容に向けた基礎的研究

崔文竹(国立環境研究所社会環境システム研究センター)

 

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―受賞概要― 
 近年,自動車の普及や生活環境の変化による生活習慣病リスクの増大が問題視されており,それを踏まえていかに健康寿命を延伸するかが世界的な課題である.対策としては,公共交通利用意識の醸成や社会関係の構築を目指すモビリティ・マネジメント(以下MM)の取り組みなどが挙げられるが,徒歩・運動・食生活・睡眠などの生活習慣が一時的に改善できるものの,長期的に継続しにくいという課題が残っている.
 以上の背景を踏まえ,本研究では,生活習慣の改善に対する都市計画分野の寄与の可能性を明らかにすることで,環境や交通などの観点から個人の行動変容をもたらす「健康都市」に関する取り組みを提案することを目指す.その際,都市計画分野に留まらず,公衆衛生分野における「健康都市」の着眼点を包含し,両分野における知見の活用を試みた.さらに, MM政策に加え,健康や生活習慣の維持の意欲喚起,加えて公共交通機関及び生活利便施設などのハード面の整備について提言することで,これらの課題解決に向けた有用な参考情報を提供することを目的としている.
 本研究の内容としては,まず都市計画分野及び公衆衛生分野における「健康都市」に関連する評価指標を比較し,両分野の差異を分析した.このとき,健康のための行動変容に対する阻害要因についても,両分野において整理を行った.以上の分析結果を踏まえ,次にウェブアンケートを用いて大規模な調査データを取得し,行動変容と交通や社会関係などの要因の関連性についての分析を行った.さらに,居住者の生活習慣における行動変容に対し,「継続」ステージに留まらせる促進要因,「中断」ステージにしてしまう阻害要因を明らかにし,健康生活習慣を継続しやすい都市空間と社会システムに必要な要素を明らかにしている.そのうえで,現実的な社会状況と環境状態に基づき,MMの効果が継続的に発揮できる「健康都市」の取り組みについて提案を行った.

―JCOMM実行委員会から―
公衆衛生・保険分野で健康行動に関する先行研究を適切にレビューしたうえで、都市計画・交通計画分野における健康まちづくりにおける取り扱いとの比較を行っており、その結果をもとに新たな健康街づくり指標の開発への提言を行ったことが高く評価されました。また、それらを一連の研究論文として公表していることなどを総合的に判断してJCOMM技術賞として選定されました。

 


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