ID:O-01 とよはしエコ通勤運動の実績と今後の展開 |
山口 雅己 (豊橋市都市計画部都市計画課計画・交通グループ)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻 教授)
a) 背景と目的
豊橋市では、平成18~20年度の交通意識変革促進プログラム(以下「MM」)による路線バスの利用促進、小学生への意識啓発、通勤 における自動車利用削減等を試行的に行い、各事業の有効性や問題点を確認した。平成21年度からは『かしこい「クルマと公共交通」の使 い方を考えるプロジェクト』として、継続的な実施及び実施する地域や対象を拡大している。本発表では、平成19年度に市役所等を対象に試行した通勤MMから平成22年度より豊橋市役所でスタートした「とよはしエコ通勤運動」までの実績や今後の展開について紹介する。
b) プロジェクトの内容
「とよはしエコ通勤運動」は、地球温暖化防止への貢献、交通渋滞の緩和及び公共交通機関の活性化への寄与、職員の健康増進を目的に、 各課にエコ通勤管理者を設置することや職員が出し合ったお金を活用した報奨・補助制度の実施、通勤手当の見直しといった取組みを平成2 2年4月から実施している。
c) 効果
平成19年度の試行では、市職員駐車場の利用が約12%削減した。そして今回の運動では、試行前と比較 して約20%削減という結果が確認できた。また、本庁職員のエコ通勤率は運動開始前の39%から56%(579人/1027人)となり 、当初の目的である「本庁職員のエコ通勤率50%」が達成できた。
d) 結論
平成19年度からの一連の取組みにより、豊橋市役所ではエコ通勤 が浸透しつつあり、市職員が率先して環境にやさしい交通手段で通勤することは、全市レベルの運動へ発展させる第1歩として大変意義のあ る取組みであると認識している。今後は「とよはしエコ通勤運動」の最終目標である「全職員のエコ通勤率50%」を目指すとともに、豊橋 市役所での取組みをモデルとしながら、市内で通勤交通による道路渋滞等の問題を抱えている地区において、市民、企業、行政が連携・協働 して問題解決のための検討を行い、交通システムの改善やMMなどをエコ通勤運動として実践することを目指す。
キーワード:職場MM エコ通勤 職場交通マネジメント
ID:O-02 松江都市圏におけるノーマイカーウィークの実施~4年間にわたる職場MMの地道な展開による成果~ |
飯野 公央 (松江市公共交通利用促進市民会議会長・島根大学法文学部)
神田 佑亮 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
山東 信二 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
深江 篤司 (松江市役所)
杉谷 年章 (松江市役所)
西ノ原 真志 (国土交通省中国地方整備局松江国道事務所)
山本 活稔 (国土交通省中国地方整備局松江国道事務所)
谷口 守 (筑波大学大学院)
a) 背景と目的
松江都市圏ではH19年度より事業所個別にコミュニケーションを図り、職場交通プランの作成を促してきた。高くない公共交通サービス水準
や雨や雪の多い気候等、自動車からの転換が進みにくい特性に反し、策定事業所数はH20年度末で約40社、3000人規模に拡大した。H21年度に山陰初となるノーマイカーウィークを実施したが、H22年度はその取り組みを拡大し、公共交通通勤促進策を講じて展開した。
b) プロジェクトの内容
自動車依存度の高い地域で「ノーマイカーウィーク」を通じた意識・行動変容を図るため、参加したくなる雰囲気づくりと魅力ある代替交通手 段確保策を講じた。とりわけ今年度は、「市内バス100円均一」、「通勤時間帯の特急・快速列車の臨時停車」、「P&R駐車場の確保」など、代替交通手段の利用促進を総合的に実施した。
c) 効果
期間中100事業所、7日間延べ約3200人の参加があり、市内の交通状況は昨年度以上の渋滞緩和効果が確認された。また2年連続して継続的に実施することで、事業所の取り組み姿勢も大きく高まっている。さらに、昨年度参加した従業員のうち、実際に自動車通勤から転換したりする人も確認された。
d) 結論
松江都市圏では4年間にわたり事業所MMを展開したが、公共交通の利便性が低くMMに不向きと捉えられがちな地域でも、地道なコミュニケーションの継続と利用者視点での代替交通手段の魅力向上により、MMが十分に効果があることを示唆している。今後はこれまでの取り組みで得られた事業所や市民の意識を更に高めつつ、地道なコミュニケーションを継続し、コンパクトな都市構造を活かした交通体系の確立が望まれる。
キーワード:職場MM 渋滞対策 職場交通マネジメント MM評価
ID:O-03 イグレス交通手段に自転車を活用したエコ通勤(「駅から自転車」の実験)について |
國定 精豪 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
加知 範康 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
山﨑 基浩 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
西堀 泰英 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
a) 背景と目的
愛知県豊田市は車のまちとして発展をしてきたが、現在、交通渋滞や環境問題などからエコ通勤への転換が必要となってきた。だが、豊田市は、通勤先の最寄りの駅からのイグレス交通に対する抵抗がエコ通勤促進を阻害する要因となっていると考えられる。そこで、公共交通による通勤におけるイグレス交通手段として、自転車を会社から通勤者へ提供することにより、自動車から公共交通への手段変更や公共交通手段の利用継続・拡大を目指した実験を実施した。
b) プロジェクトの内容
会社員に対して、会社を通じて自転車を提供し、2010年12月から約3ヵ月間、通勤先最寄り鉄道駅からのイグレス交通手段として利用していただいた。参加者には、自転車提供期間中の自転車利用の有無をその理由と合わせて記録していただき、提供期間終了後にはイグレス交通手段としての自転車の効果に関するアンケート調査をした。
c) 効果
天候や就業形態(出張や、深夜残業など)が自転車の利用に影響しているものの、通勤時に提供した自転車を駅から会社まで(帰宅時はその逆 )を利用した割合が7割を超え、会社から出社時のイグレス用自転車を提供することにより、エコ通勤を促進できると感じた。また、会社に 到着後は通勤者以外にもその自転車を業務利用として共同で利用した会社も数社あり、会社としての自転車の活用の幅が広がった。また、個 人からの回答の大半が「駅から自転車」を継続したいという意見であり、利用者には好評であった。
d) 結論
イグレス交通手段として自転車の提供があると自動車から公共交通への手段変更や公共交通手段の利用継続に対して一定の効果があることが、 示唆された。
キーワード:職場MM 自転車利用促進 駅から自転車
ID:O-04 京都府全域を対象とした免許更新時モビリティ・マネジメントの継続的な取組と効果 |
土崎 伸 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
仲尾 謙二 (京都府建設交通部交通政策課)
永田 盛士 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
中安 隆年 (国土交通省近畿地方整備局)
若林 拓史 (名城大学大学院都市情報学研究科)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
藤島 寛 (立命館大学応用人間科学研究科)
神田 佑亮 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
a) 背景と目的
京都府では、150万人の免許保有者が5年に1度は受講する免許更新時講習の機会を活用し、京都府独自の啓発資料を配布する取り組みを H19年度より実施している。この取り組みは平成22年度で4年目を迎え、これまでの配布枚数は約120万枚にのぼっている。また、早 い人は二順目の講習を迎えている。これを踏まえ、資料改訂を繰り返しながら4年目を迎えたH22年度免許更新時MMの効果およびこれま での効果継続状況について検証を行った。
b) プロジェクトの内容
効果の計測はH23年1月に受講者に事前・事後アンケートを実施し分析した。分析は講習前後のクルマの使い方への意識や自動車の利用回 数、時間の変容状況に加え、二順目の受講者の資料の保有状況や保有場所について行った。また、この結果からCO2削減の直接効果に加え 、自動車以外の手段への転換による健康増進等の間接効果や、それらに基づく費用対効果を分析した。
c) 効果
取組の主な効果を以下に示す。
(1)意識・行動変容効果が確認された。効果は優良講習受講者において特に大きかった。また、行動変容による年約2万tのCO2削減効果が計測された。
(2)費用対効果をCO2削減、健康増進、交通事故損失減少の各便益で評価すると、単年度で69.7という高い効果が確認された。これは取り組みの知見の蓄積による効率化も影響している。
(3)二順目の受講者のうち約2割が前回配布された資料を保有しており、そのうち約4割は狙い通り車内に保存していることが分かった。
d) 結論
本稿ではH22年度免許更新時MMについて、取り組みの効率化もあり、社会的経済的観点から高い効果があることを確認するとともに、効果が継続していることを確認した。
今後は、取り組みの着実な継続・定着に向けた関係者の調整を図るとともに、2サイクル目(平成24年度)以降の発展・拡大に向け、講習時の啓発のあり方や、講習以外でのドライバーへの啓発方法等について議論を深めていくことが望まれる。
キーワード:交通安全 自動車免許 MM評価 免許更新時MM
ID:O-05 大学オリジナル交通情報ツールの作成と新入生への配布効果 |
加藤 良彦 (パシフィックコンサルタンツ(株))
鷺坂 志織 ((株)テクノ東北)
足立 千佳子 (特定非営利活動法人まちづくり政策フォーラム)
伊東 幹也 ((株)ユーメディア)
仙台市総合交通政策局公共交通推進課
a) 背景と目的
仙台市では、持続可能な環境都市づくりの一環として、公共交通を中心とした交通体系の構築を目指している。一方で、人口に対する大学生・大学院生の割合が高い「学生のまち」でもあり、仙台市近郊の14大学全体の約2割の大学生は、自動車やバイクで通学している。これらの背景のもと、本プロジェクトは、低炭素社会の実現に向け、学生の公共交通軸への居住地誘導や自動車・バイク依存の緩和を目的に実施したものである。
b) プロジェクトの内容
参画・協力に同意を得られた5つの大学(キャンパス)において、ワークショップによる在学生の意見集約や大学の研究室を主体とした自主制作により、大学ごとに様々な工夫を凝らしたオリジナル交通情報マップを作成し、居住地を決める前の入試合格者へ合格通知への同封等により配布し、アンケート調査にてそれらの効果検証を行った。なお、本プロジェクトの実施においては、環境省「低炭素地域づくり面的対策推進事業」を活用している。
c) 効果
平成22年度の新入生のうち、自宅通い以外の方は、平成21年度の新入生に比べ、バス停により近い居住地を選択するとともに、自宅通いの方も含めた意識啓発も図られ、入学直後の通学手段における自動車・バイクの割合が19%から11%に減少した。また、それによる二酸化炭素排出量の削減率は、入学直後で17%、自動車免許等の影響を考慮した夏休み後で13%と推計された。
d) 結論
交通情報ツールを次年度の合格者に配布することによる一定の効果は確認された。その中で、各大学にて通学環境により自動車・バイクの利用状況が異なるため、学生の意見を取り入れ、各大学に適した交通情報マップを作成することは、効果を最大化する上で極めて重要である。大学が主体的に継続していくためには、費用の確保等の課題もあるが、HPへのアップや大学生協の参画等、各大学で可能な方法により継続が図られている。
キーワード:転入者MM 地球温暖化対策 自動車利用抑制 マップ作成
ID:O-06 とやまレールライフ・プロジェクト:マスメディアとLRTを活用したMMの大規模展開 |
大門 健一 ((株)新日本コンサルタント)
東福 光晴 (富山市都市整備部交通政策課)
市森 友明 ((株)新日本コンサルタント)
星野 秀明 ((株)新日本コンサルタント)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
富山市では近年、富山ライトレールのLRT化や市内電車の環状線化などハード面を中心とした公共交通の質を上げる取り組みが行われてきた。ハード整備により公共交通利用客は増加してきているものの、依然自動車利用率は非常に高く、充実した公共交通のポテンシャルを最大限に活かしきれていない。
この状況を打開し、最新の都市交通システムの潜在能力を最大限に引き出すことを目的として、「とやまレールライフ・プロジェクト」と称した居住者対象のMMを実施した。
b) プロジェクト内容
富山地域全域をカバーする放送局で、MMコンテンツを提供するラジオ番組を4ヶ月間、週1回5分間、平日の通勤時間帯に、17回放送した。この番組は、MMの専門家である学識経験者とパーソナリティとのバラエティ色を強調したトークの中で、健康や環境等のMMメッセージを伝えた。ラジオ番組と連動する形で、居住者TFP、フォーラムの開催、ホームページの開設を行った。
c) 効果
ラジオ番組の聴取率は約7.4%であり、推計すると約2.5万人へのコミュニケーションが達成でき、かつラジオのコミュニケーション接触者における公共交通利用率が1.5倍に増加したこともアンケート結果により示された。また、ラジオ番組でも案内し協力を依頼した居住者TFPでは回答率が約52.4%と郵送によるものとしては非常に高くなった。平成22年度の取り組みすべてで、合計約4.1万人に接触でき、かつ、公共交通利用者が約4%増加したことが推計された。
d) 結論
ラジオ番組によるMMは非常に多くの人とコミュニケーションが図ることが可能で、かつ効果もTFPと同程度であったことが示された。今後もラジオ番組によるMMを予定しているが、さらに効果をあげられるような他の取り組みとの連動方法、ラジオ番組の活用法について検討することが重要と考える。
キーワード:居住者MM 地域公共交通活性化 TFP マスメディア
ID:O-07 観・感・環、「iKeco」で発見!いけだのまねきエコ~大阪池田市の地域通貨「iKeco」と連携したMMと、一連のMMのパッケージ展開~ |
庄田 佳保里 (NPO法人いけだエコスタッフ)
岩崎 隆 (池田市市民生活部環境にやさしい課)
谷田 成司 (池田市市民生活部環境にやさしい課)
神田 佑亮 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
土崎 伸 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
三上 千春 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
松村 暢彦 (大阪大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
池田市は大阪市中心部から約15km北方に位置し、ベットタウン、工業都市、豊かな自然を併せ持つ。また全国初のESCO事業の導入など、先進的な環境政策を展開している。池田市では平成20年度より事業所へのMMを実施してきたが、平成21年度は環境と交通・まちづくりの連携を念頭に①環境地域通貨と連携したMM、②MMのパッケージ実施、③公用車カーシェアリング(CS)実証実験(市役所レベルでは全国初)を実施した。
b) プロジェクトの内容
①地域通貨と連携したMM
地元店舗で使えるクーポン券を発行し売上を新エネ導入基金に充当する「地域通貨」と連動し、地元商店の情報提供や交通面の啓発を行い、スキームの可能性やまちづくり、交通面の効果を検証。
②MMパッケージ実施
事業所MMの継続や転入者MMの実施、地域資源を活かした休日余暇活動を対象とするMMを展開。
③公用車CS
CSを市役所敷地内に設置し、市役所と住民との共同利用の可能性を検証。
c) 効果
①地域通貨と連携したMM
予想以上の地域通貨が流通し、地元商店の活性化や自動車利用の抑制等、環境やまちづくり、交通面で効果があった。
②MMパッケージ実施
転入者MMでは約9割が公共交通等の利用意向を示した。余暇活動MMでは多くの人が地域資源をテーマとした散策の行動意向を示し、クルマに依存しない休日の過ごし方への変容効果があった。
②公用車CS
休日を中心に市民のCS利用も見られた。また走行距離低減効果があった。
d) 結論
環境地域通貨と連携したMMでは、地元店の売り上げ増や基金確保に加え、クルマ減少効果も見られ、まちづくりと連携していくことで相乗効果が得られる可能性が示された。
MMパッケージ実施では、転入時などのタイミングや、自然散策マップなど併せて提供する情報を工夫することで大きな効果が得られた。
公用車CSでは、市役所周辺に住宅が集まる地域では、共同利用によりクルマの効率的利用につながる可能性が示された。
キーワード:総合的なMM、まちづくり、カーシェアリング、中心市街地活性化、余暇活動MM
ID:O-08 新潟市都心軸ワンコインバス社会実験及びまちなかバス券 |
松田 暢夫 (新潟市都市政策部都市交通政策課)
丸山 信文 (新潟市都市政策部都市交通政策課)
相馬 浩幸 (新潟市都市政策部都市交通政策課)
a) 背景と目的
新潟市は日本海側の拠点都市・田園文化都市を都市像とする政令市であるが、自動車分担率が70%と高く、過度なマイカー依存からの脱却が政策課題となっている。また、老舗デパートの閉店など古くからの都心である古町地区の衰退が著しい。
このような中、まちなかの活性化と公共交通の利用促進を図るため、ワンコインバス社会実験など実施している。
b) プロジェクトの内容
本市の都心軸である新潟駅~古町間約2kmの移動を容易にし、公共交通による来街者の利便性を高めるため、基幹バス「りゅーとリンク」の新潟駅~古町間をワンコイン(通常200円)とする社会実験を市が主体となり新潟交通の協力により実施した。(平成22年4月24日~8月22日の土日祝)
また、古町地区及び万代地区の商店街が「バス利用の買い物客」を大切にしようと「まちなかバス券」を配布する事業を同年12月から開始した。
なお、この2事業は新潟市のまちなか再生本部の緊急及び短期事業に位置づけ実施した。
c) 効果
ワンコインバスは1日平均3120人と大勢の市民が利用し、新潟駅~古町間全バス利用者数(駅発着バス)の前年同時期との比較は、毎年減少傾向の中、12%の増加となった。アンケートでは特に若年層高齢者層の外出の増加や、マイカーからバスへ2割弱の転換が見られるなど、一定の効果があった。
また、前年のエコまちアクセス社会実験(バス券配布)や今回のワンコインバス社会実験が引き金となり、商店街によるバス券配布事業が実現した。買い物客の評判は上々であるが、いずれ効果の測定分析を行う必要がある。
d) 結論
ワンコインバス社会実験は、買い物客などの利便性向上や公共交通利用促進において一定の効果が見られたが、商店街のバス券配布事業に併せ、今年度も内容を変えながら引き続き実施し、さらなる利用増やまちなか活性化への影響など検討分析を行う必要がある。
キーワード:バス利用促進 中心市街地活性化 公共交通サービス水準改善
ID:O-09 京都におけるシェアード・スペース社会実験 |
宮川 愛由 ((株)システム科学研究所)
豊茂 雅也 (京都大学大学院工学研究科)
田中 均 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
金森 敦司 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
山崎 佳太 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
京都市においては、「歩いて楽しいまち」の実現にむけ、都心の細街路は「安全・安心で、自動車が歩行者等に配慮してゆっくり走ることを基本」とした歩行空間であるべきとしている。一方、近年の欧州において、歩車共存空間を再構築するShared Spaceという取組が提唱・実践されており、安全で快適な道路空間づくりに一定の成果を上げている。
こうした諸背景を踏まえ、京都市においてShared Spaceの社会実験を実施し、その有効性を検証することを目的とした。
b) プロジェクト内容
対象区間としては、都心の細街路であり、かつ、自転車、自動車交通量の多い、京都市内の東洞院通(四条通~高辻通)を選定した。本実験では、対象区間において、歩車を分離する白線を消去した上で車道中央部と路肩部にカラ―舗装を行うことで、歩車共存空間を創出した。調査方法としては、実験前後における交通量調査、車両走行速度調査、歩行者に対するヒアリングアンケート調査、ビデオ撮影による行動分析、アイコンタクト・会釈回数測定調査を行った。
c) 効果
車両走行速度が平日・休日ともに減速したことが確認された。また、歩行者の「道の真ん中の歩きやすさ」「道の印象」に対する評価が統計的に有意に向上することが示された。さらに、歩行者とドライバー間におけるアイコンタクト・会釈といったコミュニケーションが4.4倍にも増加するという効果が得られた。この他にも、行動分析の結果から、1人で歩く場合には、道を横断する割合が僅かではあるが増加することが確認された。
d) 結論
道路空間をShared Space化することで、歩行者とドライバーが相互に配慮する意識の向上や、車の減速効果が確認された。ゆえに、Shared Spaceは日本における安全・快適な道路空間づくりに有効であり、「歩いて楽しいまち」の実現につながると言えよう。今後のShared Spaceの展開にあたっては、ドライバーの挙動や空間デザインに着目するなど、多方面からの検討を行う必要があると考えられる。
キーワード:交通安全 道路空間再配分 Shared Space
ID:O-10 モビリティをきっかけとした対話による中山間地の地域マネジメントの試み |
神谷 貴浩 (山梨大学大学院医学工学総合教育部)
佐々木 邦明 (山梨大学大学院医学工学総合教育部)
a) 背景と目的
山梨県甲斐市の敷島北部地域は、沢筋の県道とそこから離れた地点に少数集落が点在する高齢化率の高い地域である。これまで県道には民間交通事業者による路線バスが運行されていたが、平成22年7月から新たに全集落を通過する市民バスの運行が始まった。しかし、事前調査において市民バスの利用意向は高かったにもかかわらず、運行開始から利用状況は低調であった。そこで、高齢者の外出支援を通じてよりよい生活の達成を目的とする。
b) プロジェクトの内容
市民バス運行開始前に、60歳以上の住民全員を対象にした交通行動と利用意向に関するアンケートを実施した。アンケートは訪問回収を行い、その際にアンケートでは把握が困難な生活実態等についてヒアリングを行った。続いてバス運行が開始された約半年後に全体の1/5の世帯を対象とした世帯訪問を行い、そこから得られた情報および市民バス運転手への聞き取り調査を用いてバス路線の改善計画を立てた。現在は、民生委員との連携を開始し、高齢者の生活支援策の検討を行っている。
c) 効果
本取り組みは、公共交通をきっかけとして過疎集落の住民に直接話を聞く機会を作ることに狙いがあった。これによって公共交通を通じた地域課題の改善可能性を検討するだけでなく、地域の方々が移動をきっかけとして自分自身や地域について考えていただくことを意図していた。
これまでの直接のヒアリングに対しては、こちらの質問に対しての回答だけでなく、運行の提案や今後の地域のあり方についての意見を頂くことができ、当初の意図は達成されていると考えている。
d) 結論
中山間地では高齢単身者や高齢者のみの世帯が多いこと、地形が一様でなく、個人によって利用に対するバリアが大きく異なることから、抽出サンプリングによるアンケート調査をベースとする形式では現状が把握しづらい。また、高齢者との対話は一方通行でなく、よりインタラクティブなコミュニケーションが可能であり、モビリティをきっかけとした地域マネジメントについてより高い効果を上げることができたと考えられる。
キーワード:健康増進 高齢者 中山間地
ID:O-11 行動プラン法を用いた高齢者対象のデマンドバス利用促進施策 |
柳澤 龍 (東京大学大学院)
中山 晃彦 (北杜市役所)
坪内 孝太 (東京大学大学院)
大和 裕幸 (東京大学大学院)
a) 背景と目的
山梨県北杜市では平成21年度からデマンドバスの運行をはじめた。須玉町増富、県道沿いエリアは、高齢化率が約60%と非常に高く、地域住民は日常生活用品の購入、医療機関への受診などに不便をきたしていた。デマンドバスの利用障壁は高く、登録は行っても初回の利用までに時間がかかり、利用しない人が多い。そこで、デマンドバスの利用対象が積極的に利用するための行動転換施策を行うことを目的とした。
b) プロジェクトの内容
地域住民の外出・生活支援のため、デマンドバスの実証運行において、地域住民が積極的に利用するための行動プラン法を実施し、効果を分析した。既に利用登録している人に対して、利用障壁である電話予約が数回の利用で下がること、地域の人との繋がりが健康に関係すること、北杜市が実施している生涯学習プログラム事業への参加を促す行動プラン票を作成し配布した。
c) 効果
資料を配布した668人の中で、1月、2月、3月にはじめてデマンドを利用した人数を調べた。1月、2月は一桁で収まる人数であったが、資料を配布した後の3月は25人となった。行動プラン票が利用者のデマンドバスへの関心を高め、利用を促進する効果があることがわかった。行動プラン票の質問項目の集計からは、生涯学習プログラム事業への関心の高さ、地域住民との繋がりを大切にする傾向が読み取れた。
d) 結論
結論として、登録したが利用しなかった人が利用する割合を高めた。デマンドバスの利用登録者に対し、地域住民とのコミュニケーションを促す行動プラン票を作成して配布し効果を分析した。結果、デマンドバスの登録を行った人に対し初回の利用を促す効果があることがわかった。質問項目を集計した結果、対象者が地域コミュニティの繋がりを大切にすることがわかった。
キーワード:バス利用促進 地域公共交通活性化 ITS 高齢者
ID:O-12 過疎高齢集落住民のモビリティ確保に向けた取り組み~福井市高須町における自治会輸送活動モデル事業~ |
川本 義海 (国立大学法人福井大学大学院工学研究科)
辻 佑介 (大津市建設部道路管理課)
吉川 貴大 (福井市都市戦略部交通政策室)
中山 衞 (福井県総合政策部交通まちづくり課)
a) 背景と目的
高齢化が進む中山間地域では路線バスや乗り合いタクシーといった公共交通サービスが提供されていない所も少なくないため集落住民のモビリティ確保は急務であり、集落住民同士の共助による輸送活動の取り組みが各地で展開されるようになった。そこで本発表では福井市内の過疎高齢集落を対象におこなわれている自治会輸送活動について、開始から半年経過した段階での状況ならびに今後に向けた課題について報告する。
b) プロジェクトの内容
これまで公共交通サービスが皆無であった福井市高須町において、県と市の総合サポートのもと集落住民が主体的に取り組む輸送活動が2010年8月に開始されて半年以上が経過した。このモデル事業では、県が市町に経費を補助し、市が自治会等に輸送活動の車両を無償貸与するもので、自治会事務局自らが輸送計画の立案、利用者・運転者の登録、車両・運行の維持管理、運行記録の作成、輸送活動会計を担うものである。
c) 効果
運行開始後、現在まではほぼ順調に進んでおりとくにこれまで自分自身で移動手段を持たなかった利用者には大変好評で継続運行が期待されている。また高須町には各地から視察に訪れる関係者も多くなり、地元でもテレビや新聞といったメディアに度々取り上げられるようになったことで住民の意識も高まってきており、住民同士で支え合う公的なモビリティ確保の新しい形が見え始めている。
d) 結論
現時点でとくに問題は無いものの、今後の持続的な運行に当たって経費面や運転者確保をはじめ、運行ルート延長などによるサービス機会の向上、さらには集落住民の活動選択の幅をさらに広げ集落活力の維持向上につなげていくための活用などの創意工夫が必要である。なお今後の改善と活動継続に向けた懇談会なども継続的に実施中であり、また住民へのヒアリング、アンケートも計画中である。
キーワード:まちづくり 自動車相乗り(カープール) 高齢者 交通弱者
ID:O-13 災害に強い交通まちづくりー水戸市の事例を踏まえて |
宇都宮 浄人 (関西大学)
a) 背景と目的
このたびの東日本大震災を踏まえ、都市の防災というものが求められている。そのとき、真に災害に強い都市であるためには、交通まちづくりが重要である。そこで、本発表では、茨城県水戸市における茨城交通の対応をみたうえで、そのインプリケーションと、今後の交通まちづくりにおける課題を考える。
b) 内容
今回の震災の際には、水戸市の場合、地震(震度6強)により、市役所含め被災したほか、鉄道の全面的運行停止、電気、上下水道等ライフラインの停止とともに、深刻なガソリン不足が生じた。こうした中で、茨城交通は全線上限200円運行を実施したほか、高速バスの早期再開、JR支援バスの運行など迅速な対応を取り、市民の移動を支えた。
c) 効果
茨城交通の対応は、公共交通の重要性を市民に再認識させたほか、バス通勤の運賃が抑えられたことへの評価もあった。ただし、ガソリンスタンドの渋滞のため、バスの定時性が確保されないなどの問題が表面化したほか、JR支援バスについては、既存バス路線との整合性からJRより料金が高い区間もあり、市民に不満が残った。また、運賃の上限設定にもかからず、JRが運行停止して公共交通のネットワークが崩れたため、実際のバス利用者は大幅に減少することとなった。
d) 結論
自動車にのみ依存した交通体系では、一定の人口集積のある都市の場合、災害時に大量の移動難民が出てしまい、さらには緊急車両、物資運送も渋滞により、運行に支障が出る。そうした中で、公共交通は、効果的な移動手段として機能を果たすことが改めて確認される。ただし、このためには、公共交通が優先的に通過できるしくみが必要である。平時から、自動車のみへの依存を脱却した都市が真に災害に強い都市といえる。したがって、利便性の高い公共交通の整備のほか、公共交通利用を促す政策が必要である。
キーワード:まちづくり バス利用促進 総合交通戦略 防災対策