ID:PA-01 岐阜県による樽見鉄道活性化にむけた支援 |
堀内 重人 (運輸評論家)
a) 背景と目的
樽見鉄道では、セメント輸送による収入が4割を占めていたが、2004年に輸送量が少なくなったことを理由に、トラックに置き換わった。これにより樽見鉄道の経営危機が表面化したため、自社でも郊外型スーパーモレア岐阜の近くに、モレア岐阜駅を設けるなどの活性化策を講じている一方、岐阜県や沿線自治体も樽見鉄道活性化に向けた支援を行うようになった。
b) プロジェクトの内容
2010年以降も事業が継続するように、2009年2月26日に岐阜県、本巣市、沿線事業所の10団体と樽見鉄道は、樽見鉄道を活用したCO2排出削減事業の協定を締結している。各事業所は、月1回の金曜日をノーマイカーデーと定め、公共交通の利用を奨励するようにしている。樽見鉄道は金曜日に限り、全線に乗車可能なECOフライデー300という割引き回数券を3000円で販売している。
c) 効果
この回数券は、協定締結事業者(団体)と、その従事者(構成員)のみの販売であるため、一般の人が購入することはできないが、岐阜県と本巣市は、参加事業所の拡大や樽見鉄道のPRに努めたため、この事業で樽見鉄道は1カ月あたり100人の利用者が増加し、年間で4.6トンのCO2排出削減につながった。
d) 結論
岐阜県の古田肇知事は、「今回の事業が、他地域の鉄道支援モデルとして県下に広がることを期待したい」としている。樽見鉄道の活性化を目的に始まった取組みであるが、地球温暖化防止と大垣市内の道路交通渋滞の解消に期待が持てる。岐阜県のみならず、「地球温暖化防止」という視点から全国展開が望まれる。
キーワード:職場MM 渋滞対策 地球温暖化対策 自動車利用抑制
ID:PA-02 通勤時の疲労に着目した低炭素通勤政策の検討 |
真坂 美江子 (徳島大学)
加藤 研二 (阿南工業高等専門学校)
近藤 光男 (徳島大学)
奥嶋 政嗣 (徳島大学)
a) 背景と目的
徳島県ではこれまでシャトルバス、コミュニティーサイクルの設置や、県内企業への自転車/徒歩手当の推奨活動により低炭素交通社会を目指してきたが、特に郊外工業団地では、未だ大多数が自動車で通勤している。郊外工業団地では、公共交通が未発達である場合が多く、市街地に比べて従来の低炭素交通政策は、普及しにくい。そこで本プロジェクトでは、特に郊外の従業者を対象として、通勤時の疲労に着目し新たなMMの可能性を検討した。
b) プロジェクトの内容
郊外工業団地従業者を対象に、通勤時における疲労感を知るためアンケートを実施した。内容は、以下のとおりである。
(1)通勤前後の肉体的変化を知ることを目的とした質問
(2)通勤による主観的疲労を知ることを目的とした質問
(3)性別、年齢、家族構成など回答者本人に関する質問
c) 効果
疲労に関する2種類のアンケートからそれぞれ異なる特徴が得られた。(1)の肉体的疲労の分析からは、自動車の通勤距離が増えるに従い肉体疲労を訴える回答者は、指数的に増加した。一方、(2)の主観的疲労の分析からは、男女とも特定の年齢層で疲労を訴える回答者が増加し、この要因に世帯構成が関与していることが分かった。以上の結果から、通勤時の疲労を指標としたMMの有用性が見られた。
d) 結論
本プロジェクトでは、地方都市における新たなMM指標として、“通勤時の疲労”に着目した。その結果、肉体的疲労、および、主観的疲労で特定の個人との因果関係を見られ、通勤疲労が、MMに利用できる可能性を見出した。
キーワード:地球温暖化対策 交通安全 自動車利用抑制 職場交通マネジメント
ID:PA-03 「高専生が考えた通学バスの改善提案」~既存バス路線のオンデマンド運行と「雨の日パス」の導入~ |
片山 紗緒里 (徳山工業高等専門学校専攻科)
目山 直樹 (徳山工業高等専門学校)
a) 背景と目的
学生数700名の中規模キャンパスにおいて、通学バスの利便性の向上と利用者確保を図るため交通まちづくりとして、通学交通の実態を把握したうえで、学校をプロジェクトの単位とする交通まちづくりについて検討する。
b) プロジェクトの内容
学内での通学に関するアンケートの調査結果より、普段、自転車を利用する学生の多くが、雨天・降雪時にバスや送迎車に転換していることなどがわかった。調査結果を踏まえ、既存バス路線によるオンデマンド運行と新型割引定期券(雨の日パス)の導入を提案し、その実施可能性と予想し得る効果について検討した。
c) 効果
本プロジェクトは企画段階で、以下4点の効果を想定している。1)利用者増による収益の改善、2)交通手段転換に伴うCO2削減など地球温暖化防止効果、3)雨の日の自転車利用の低減による通学交通の安全性の向上、4)枝線バス路線上にある学校(周辺の高校など)へのプロジェクトの展開の可能性。
d) 結論
雨の日に、普段自転車を利用しているものの半数がバスに利用転換するため、これらをターゲットにした「雨の日パス(割引定期乗車券)」の導入と、オンデマンド運行により「徳山高専行きのバス」を増便することを提案した。
キーワード:大規模事業所MM バス利用促進 オンデマンド運行
ID:PA-04 神戸市における継続的なESTの取組み~H22年度における更なる発展~ |
菅野 孝 (神戸市交通局営業推進課)
森山 尊弘 (神戸市交通局営業推進課)
土井 勉 (京都大学)
東 徹 ((株)システム科学研究所)
加藤 隆章 ((株)システム科学研究所)
宮川 愛由 ((株)システム科学研究所)
a) 背景と目的
近年、温室効果ガスの削減が世界レベルで喫緊の課題となっている。特に、総CO2排出量の約2割を占める運輸部門での対策が必要であると議論されている。そこで、神戸市では、低炭素社会形成に向けて過度なマイカー利用から公共交通利用への転換を図るため、平成15年からTDMにより、平成17年からMMに取組んだ。平成22年度は、これまでの取組みを検証し、時代ごとに変化し続ける社会情勢等に適合するよう取り組みの内容を変えながら、また継続的に実施した。
b) プロジェクトの内容
平成22年度には、平成15年より取組んでいるエコファミリー制度の適用期間をお盆休み期間から夏休み期間に拡充した。同年から取組んでいるエコショッピング制度においても、従来のチラシから交通ICカードにより交通利用履歴を確認することに取組んだ。また、福祉体験授業においてもイベントと連携し、公共交通機関によるイベント来場に力を入れた。さらに、低炭素社会実現に向けた交通社会実験や、西神工業会通勤実態調査から引き続き過去に実施したTFPの効果を引き続き検証した。
c) 効果
エコファミリー制度拡充により、マイカーからの転換者や外出のきっかけを生み出していること、また、それに伴うCO2削減効果が明らかとなった。エコショッピングにおいては、交通ICカードに対応した形式が評価され、神戸市内の他の交通事業者にも発展した。また、交通社会実験の検証により、事業化により更なる大幅なCO2削減可能性が伺えたことや、西神工業団地におけるTFP実施から3年後においてもマイカー通勤者が減少し、公共交通機関利用者が増加していることが明らかとなった。
d) 結論
平成15年より始まっているTFP、MMの一連の取組みでマイカーからの転換者が確認されており、さらに発展させた平成22年度の様々な取組みにおいても転換者が確認されている。特にエコファミリー制度の拡充により更なる転換者も確認された。今後についても、これまでの取組みをただ継続するだけではなく、定期的に様々な組織や部署と連携・協議し、さらに検証・発展させながらマイカー利用からの転換を図っていきたい。
キーワード:総合的なMM 地球温暖化対策 中心市街地活性化 MM評価
ID:PA-05 地方都市内交通不便地域における公共交通活用策に関する産学官共同研究 ~大分市の事例から~(フェーズ2) |
小畑 淳一 (大分市都市計画部都市交通対策課)
大井 尚司 (大分大学経済学部経営システム学科)
高瀬 和夫 (大分市都市計画部都市交通対策課)
小野 弦市 (大分市都市計画部都市交通対策課)
a) 背景と目的
交通不便地域における高齢者や交通弱者を対象に、移動手段の確保と、バスの利用促進を図るため、平成16年度から週2回1日1往復、事前予約制、登録制などの利用制限を加えたコミュニティバス「ふれあいタクシー」を最寄りのバス停まで運行していたが、多様化するニーズを反映できずに運行計画の見直しが課題となっていた。今回、ニーズ把握と実証運行を行う中で、新たな運行計画を策定し、利用者の多世代化と利便性の向上を図る。
b) プロジェクト内容
ふれあいタクシーの運行地域から選定したモデル地区において、産学官連携によるアンケート調査の実施やアンケートデータの分析を行い、調査結果という客観的裏付けに基づく利用改善が、利用者の増加に直接結びつくかを判断するための実証運行を行った。実証運行中、アンケートの調査結果と実際の利用実態とを比較しながら、利用者が求めているサービス水準に基づく新たな運行計画を策定した。
c) 効果
ふれあいタクシーと併走していたスクールバスを廃止し、ふれあいタクシーに制度を引き継いだことにより運行の効率化が図られた。また、運行路線の終点を路線バスの便数が多いバス停まで延長したことや、夕方の学生の通学便に混乗できるようにしたことにより、路線バスを利用して市内中心部まで出かける利用者からは好評をいただいている。
d) 結論
実証運行中の利用状況では、今までのところ、アンケートの調査結果に基づく運行利用改善が利用者の増加に直接結びついていない。その原因のひとつとして、調査結果の中には非利用者の意見が多数含まれていることが考えられる。非利用者の中には、将来的な利用を想定して利用すると答えている場合が多く、今回の利用改善にもその意見が多く反映されている。今回の実験から、非利用者の利用誘発に繋がる運行を見極めながら、利用者の満足度の向上と、非利用者の意見調整や利用誘発が必要である。
キーワード:居住者MM バス利用促進 コミュニティ・バス 交通弱者
ID:PA-06 高梁市における高校生MMの導入効果 |
宮田 勝士 (高梁市市民生活部市民課交通係)
西 大介 (高梁市市民生活部市民課交通係)
橋本 成仁 (岡山大学大学院准教授)
森山 昌幸 ((株)バイタルリード)
神田 義則 ((株)バイタルリード)
古川 のり子 ((株)バイタルリード)
a) 背景と目的
岡山県北西部に位置する高梁市では、半数以上の高校生が自家用車による送迎で通学しており、路線バスを利用する高校生は2割に留まる。一方、送迎により通学している高校生・保護者の半数以上が送迎を自粛したいと感じており、本プロジェクトでは『高校生モビリティ・マネジメント』として、そうした意向をもつ高校生・保護者に対する通学での公共交通利用促進を試みた。
b) プロジェクトの内容
市内の高校生・保護者を対象として、平成22年10月~平成23年3月にかけて、通学実態の把握や公共交通への意識啓発を実施した。特に、公共交通への転換意向がある家庭や、すでに通学で公共交通を利用している家庭に対しては、個々人の通学における公共交通利用ルート(乗降バス停や駅、徒歩距離、時刻表)、消費カロリー、CO2排出削減量等の情報提供を行った。また同市ではこれに合わせて、高校生のバス定期券の購入費用の半分を補助する制度も導入し、その旨も伝えている。
c) 効果
こうした施策の結果、外出時の徒歩や自転車、公共交通の利用について、「意識し、実行している」と回答した者が41%に上り、通学時の路線バス利用回数が、全体で、登校時では4.5%、下校時では8.2%増加した。個々人に沿った公共交通利用ルート等の情報提供に関しては、保護者から感謝の声もあがっており、一定の効果があったと考えられる。
d) 結論
高校生・保護者を対象としたモビリティ・マネジメントでは、公共交通転換に向けたきめ細やかな情報提供が有効であることが示された。とりわけ、意識啓発から行動に移すためには、公共交通利用ルートや時刻表などの、個人に即した情報提供が有効である。一方、外出時の徒歩や自転車、公共交通の利用では、「意識しているが、実行には至っていない」と回答する者が2割程度見られた。今後は、こうした層への対策として、バス路線の再編等と組み合わせた場合の効果や、入学時に情報提供を行った場合の効果等、検証していく必要がある。
キーワード:学校教育MM
ID:PA-07 地方中枢都市におけるインナーシティ住民の交通需要とMMの可能性―札幌市東区を事例として |
今井 理雄 (駒澤大学・応用地理研究所)
松本 公洋 (NPO法人交通まちづくりコンソーシアムゆうらん)
a) 背景と目的
日本の地域社会における公共交通サービスを維持することの困難性は、過疎地や中山間地をはじめ、地方都市で高いことはいうまでもなく、県庁所在都市や近年では地方中枢都市圏でも課題が顕在化しつつある。北海道札幌市では、公営バス事業の民営移管とその後のサービス提供方法をめぐって大きな混乱が生じており、公共交通ネットワーク維持の将来性について、考えるべき課題も多い。そのなかで市民の意識や日々の交通行動について、広く把握し検討する必要があるが、本研究ではとくにインナーシティの一部と考えられる地域住民に対する調査を実施した。
b) プロジェクト内容
NPO法人交通まちづくりコンソーシアムゆうらんが作成する「なまら便利なバスマップ(2010年冬ダイヤ版)」をアンケート用紙とともに、札幌市東区光星地区においてポスティングし、おもに郵送による回収を行った。この際、NPO法人さっぽろ介護NPO支援ネットおよび同団体が運営するコミュニティスペース光星の協力を得た。
c) 効果
「なまら便利なバスマップ」は2006年3月以降、市民団体が作成し無償配布するバスマップであるが、予算面から作成部数が限られ、またマップ発行の際には地元紙などによる報道がなされ、短期間で配布が完了することもあり、必ずしも希望者に行き渡る体制とはなっていなかった。本研究では公共交通を日常利用しない世帯を含む対象地域への配布を通じ、市民が感じるマップの必要性、公共交通の利用意識を明らかにした。
d) 結論
市民団体が作成するバスマップの存在に対する地域住民の認知は低く、ポスティングされたことで初めて入手した例が大半を占めた。しかしマップを不要とする意見は少なく、少額であれば対価を支払う意思も少なからず示された。一方、初めてマップを見たことでバス路線の存在を知り、移動に有効に活用するうごきも見られた。
キーワード:MM計画策定 態度・行動変容分析 マップ作成 インナーシティ
ID:PA-08 学生による自発的なモビリティ・マネジメント活動の展開~弘前における公共交通情報と目的地としての地域情報の発信を目的とした情報誌「ほっと」発行について~ |
大野 悠貴 (国立大学法人弘前大学人文学部)
新澤 舞 (国立大学法人弘前大学人文学部)
中山 愛理 (国立大学法人弘前大学農学生命科学部)
前田 歩 (国立大学法人弘前大学人文学部)
a) 背景と目的
弘前は複数の大学を有する学都の特性を持っており、全国から集まる大学生数は約1万人に上る。しかし、極端なクルマ依存社会の中でクルマがなく、公共交通の利用に必要な基本的情報も不足しており、学生のモビリティは十分とは言えないのが現状である。情報誌「ほっと」は、公共交通を最も必要としている学生が主体となり、公共交通の利用に伴う不安や恐怖感を払拭することと、現実的な利用につなげることを主目的としている。
b) プロジェクト内容
具体的な活動主体として、弘前大学の学生による有志団体「H・O・T Managers」を設立した。「ほっと」の仮想ターゲットは、「4月から弘前に初めて住むことになった県外出身の女子の大学新1年生」である。公共交通の利用方法や路線図、時刻表などの基本的な情報を掲載するとともに、目的地としての地域の情報を加えて、地域内回遊の促進も行っている。
c) 効果
学生をはじめとする弘前の人々のモビリティの向上はもとより、利用者増加による公共交通の維持、さらには地域活性化への寄与などを目指している。
また、この取り組みを通じて、公共交通に対する市民の意識変革を誘発し、「ほっと」の後に続くMMの施策展開を可能にする空気を醸成することで、地域におけるMMの輪を広げていくことが最大の達成目標である。
d) 結論
この取り組みの最大の特徴は、MM活動を学生が自発的に行っている点である。もちろん、学生の力だけではMMの事業内容に限界が生じる。
しかし、「ほっと」の後ろに続いて、今後必要となる大規模なMM施策を行政や事業者などの適切な担い手が実施できるようになれば、このMMは成功であると言える。
その意味で、我々のような一介の学生、すなわち市民による自発的なMMの展開の可能性を「ほっと」は示していると考える。
キーワード:バス利用促進 鉄道利用促進 中心市街地活性化 交通弱者
ID:PA-09 学生のバス利用と公共交通に対する意識に関する研究~郊外部に立地する地方大学のバス利用を増やすにはどうすべきか~ |
大井 尚司 (大分大学経済学部)
奥 晃典 (大分大学経済学部)
荘田 正 (大分大学経済学部)
那和 真由子 (大分大学経済学部)
本郷 桜子 (大分大学経済学部)
森崎 晴信 (大分大学経済学部)
a) 背景と目的
学生の課外授業や部活動等ニーズの多様化により、従来利用者として考えられていた学生の公共交通の利用が減少している。このまま若年層が公共交通を利用しなければ、将来的に公共交通の利用減が避けられない。本研究では、こういった背景を踏まえた上で、将来の利用者層である大学生の公共交通利用に関して支障となっている要因を考察し、今後学生だけでなくバス利用者全体の増加へと繋がる改善点を言及することを目的とする。
b) プロジェクト内容
本研究は、大分大学経済学部生1400名を対象に調査票形式のアンケートを実施し、現在の公共交通の利用状況、居住地との関係、目的別の利用交通手段、公共交通機関に関する情報提供や制度等の認知度の把握、公共交通を利用する機会の増減、公共交通に対する学生のニーズ、といった項目について調査を実施し、結果の解釈を行った。なお、結果の一次分析と合わせて、結果の因果関係の分析を二次的・補足的に行っている。
c) 効果
通学に関する公共交通への転換は、8割近い学生が大学近辺の徒歩圏に居住するため期待できないが、一部で雨天時等に転換する可能性がみられた。また、大学近辺と市内中心部間の移動はJR利用が多い一方、市内の大型商業施設へはバスで行くしかなく、直通バスがないことや料金の高さ、バス時刻や路線等の分かりにくさが利用のネックになっていることが確認された。ICカードや時刻確認システムなど利用促進策の認知度は低いものの、利用意思が高いことは確認された。
d) 結論
大学近辺の徒歩圏に住む学生が多い本学の学生の特徴から、慣れない土地では情報が複雑かつ不十分である公共交通よりも、自家用車やJRのようなシンプルな交通機関を志向する面が確認された。ただ、自家用車を保有していない層にとってバスサービスや公共交通に関する情報提供が利用拡大のきっかけになることは確認され、今後は学生含め早い段階での公共交通利用に関する施策を官民共同で進めていく必要性を認識した。
キーワード:学校教育MM バス利用促進 自動車利用抑制 公共交通サービス水準改善
ID:PA-10 地域別実践しやすさを考慮したモビリティマネジメント戦略の提案 |
大井 元揮 ((社)北海道開発技術センター)
高野 伸栄 (北海道大学)
a) 背景と目的
地方部では自動車に対する依存度や公共交通機関の充実度が地域によって大きく異なっている。そのため、MMの目標として実践しやすい交通行動は地域によって異なっていると考えられる。本研究では、実践しやすさを考慮し、その地域の交通や生活スタイルに合ったMMの有り様を研究対象とする。
b) プロジェクトの内容
当別町、苫小牧市、札幌市の3地域でMM意識に関する住民アンケートを実施し、地域ごとに実践しやすい項目や車への依存度について考察を行う事によって、都市ごとの違いを明らかにする。そして都市ごとに、実践しやすさと二酸化炭素削減量(効果)を組み合わせて分析を行う。また、MMを一般的に言われている、公共交通機関への乗り換えという項目に限定せず、エコドライブや相乗り、用事をまとめるなどの車の運転の工夫についてもMMの一つとして考える。
c) 効果
アンケート調査によって、都市ごとの交通状況や、実践しやすい項目を把握する事により、都市ごとにその地域の生活スタイルに合ったMMの方向性を提案する事ができた。また、エコドライブや公共交通機関の利用などのMMの項目において、住民が考えている効果と実際の効果の間には大きくずれがある事がわかった。よって、住民各々がMMの効果について正しく認識する必要がある事もわかった。
d) 結論
当別町、苫小牧市の住民は車への依存度が高く、公共交通機関に乗り換える事は極めて困難である状況にある一方、エコドライブを実践しや すいとした人は多数である事から、エコドライブを継続する事が重要である。一方、札幌の住民は地下鉄などの交通の選択肢が多様であるの に、環境意識が他地域よりも低い事から、環境問題に関心を持ち、交通網の多様性を認識し、改めて生活スタイルと公共交通機関の利用を組 み合わせて考える事が重要という結果が得られた。
キーワード:総合的なMM 自動車利用抑制 総合交通戦略 エコドライブ
ID:PA-11 Webアンケートを活用した首都高速道路の利用促進に関する取組と効果 |
山口 修一 (首都高速道路株式会社計画・環境部)
須長 順行 (首都高速道路株式会社計画・環境部)
池田 公雄 (首都高速道路株式会社計画・環境部)
大塚 裕子 (公立はこだて未来大学メタ学習センター)
須永 大介 (一般財団法人計量計画研究所)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
首都高速道路株式会社(以下首都高速)は、中央環状線の西新宿JCT~大橋JCT間が平成21年度に開通するなど、放射方向と環状方向がリンクした、多方面へのアクセス性の高いネットワークの実現に向けた整備を進めている。
首都高速では、このネットワークの利用促進を通じたCO2の削減、渋滞緩和、首都東京の経済活動の拡大等を目的として、モビリティ・マネジメントの手法を活用した取り組みを進めている。
b) プロジェクトの内容
今年度のプロジェクトでは、首都高速の利用促進が期待できるターゲットの明確化と首都高速の利用促進実現をねらいとして、Webアンケートを活用したプログラムを構築した。Webアンケートは3段階に分けて展開し、(1)対象者(Webアンケートモニター)にスクリーニングを行った後に、(2)対象者の属性や首都高速への意識、首都高速の利用状況等を把握するとともに、首都高速に関してクイズ形式による事実情報提供を行い、(3)事後にプログラムの効果を計測した。
c) 効果
意識の変化については、首都高速利用時の所要時間の見通しや渋滞・環境・安全に関する意識がポジティブな回答を選択する人の割合が情報提供前と比較して増加した。
また、首都高速の利用回数についても、クイズ形式による情報提供前よりも首都高速の利用頻度が増加したと回答した人が31%に達するとともに、年間の利用回数についても制御群と比較して施策群の利用回数が相対的に増加した。
d) 結論
今回作成したWebアンケートの実施を通じて、首都高速に対する意識の変容効果と、首都高速の利用を促進する効果の発現が期待できると考える。
今後は、事実情報として提供するコンテンツの充実、より幅広い層を対象とした効率的かつ効果的なプログラム手法の開発によって、更なる首都高速の利用促進実現を目指す。
キーワード:渋滞対策 地球温暖化対策 高速道路利用促進 MM評価
ID:PA-12 連携によるモビリティ・マネジメント施策の推進要因と金沢都市圏での今後の展開 |
鈴木 邦夫 (北陸地方整備局金沢河川国道事務所)
高橋 直樹 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
神田 祐亮 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
三上 千春 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
高山 純一 (金沢大学大学院)
a) 背景と目的
金沢都市圏ではこれまで国と自治体がそれぞれ単独でMM的な要素を持つ施策を実施していたが、コミュニケーションの働き掛け先である住民・企業にとって、非常にわかりにくいものとなっていた。その対策の第一段階として、金沢都市圏の関係機関が関連施策に関する情報を共有するため、勉強会的な位置づけである「金沢都市圏の都市と環境に関する意見交換会」が平成21年1月に設置された。
b) プロジェクトの内容
全国の先進事例から「連携の枠組みを円滑に設立する要因」、「MM施策を円滑に実施するための要因」、「連携によるMM施策の推進の鍵となる要素」等を把握する目的でアンケート調査を実施した。
アンケート調査結果から連携によるMM施策を展開する上で必要な要素を抽出し、その情報を参考に、勉強会を基に連携の枠組みが強化され、連携により実施するMM関連施策についての議論を開始した。
c) 効果
アンケート調査の結果、連携の枠組みを円滑に設立するための要因には、「前身となる組織体の存在」や「関係者による問題意識の共有」が、MM施策を円滑に実施するための要因には「公共交通事業者の参加」が、連携によるMM施策の推進の鍵となる要素には、「関係者間の情報等の共有」や「目標の明確化」が重要であることを把握した。得られた知見をもとに、金沢都市圏における連携の枠組みの強化が図られた。
d) 結論
金沢都市圏内で今後、関係機関の連携によるMM関連施策を展開するための統一的な枠組みとして、勉強会を母体とした「金沢都市圏の都市と環境のあり方に関する検討会」を設立した。また、同検討会が主体となって金沢都市圏全体で実施する施策について検討を行い、今後、具体的な連携施策の議論を進めることとなった。
キーワード:合意形成 MM実施主体の組織化 地域間比較 地域連携
ID:PA-13 社員プロジェクトチームによるお客様満足度調査の実施と利用促進・顧客満足度向 |
中沢 俊之 (江ノ島電鉄(株)鉄道部)
江ノ島電鉄(株)ブランドプロジェクトチーム
小美野 智紀 ((株)環境情報)
大舘 智昭 (大和小田急建設(株))
関 順和 ((株)浜田広告社)
髙島 亮太 ((株)玄)
a) 背景と目的
藤沢市と鎌倉市を結ぶ江ノ島電鉄(江ノ電)は、地元の通勤・通学・日常生活の足であるとともに、鎌倉・江ノ島等を結ぶ観光鉄道でもある。
多くの観光のお客様にご利用いただいているため、休日を中心に混雑緩和が求められる一方で、沿線の少子高齢化などによる通勤・通学利用の減少も懸念され、お客様ニーズの把握を含めた活性化の取り組みが求められていた。
そこで、お客様満足度向上と利用促進を図ることを目的として本プロジェクトを実施した。
b) プロジェクトの内容
社内に本社及び現業(駅係員・乗務員)社員からなるプロジェクトチームを設け、外部コンサルタント等の協力を得て定期的な討議と実地調査を行い、課題とその解決方策の検討を行った。
併せてお客様ニーズの的確な把握と行動把握を目的としたお客様アンケート調査を実施し、その結果に基づいて駅構内の案内設備更新等のサービス改善を実施した。
さらに、平成23年度より混雑緩和と利用促進を図るべく観光滞在時間拡大を狙った回遊の拡大と、特定層にターゲットを絞った利用促進の取り組みを行っている。
c) 効果
多くのお客様から判りにくいとされた鎌倉駅について案内整備の更新を行うとともに、お客様の声により事業を行っているという広報を実施した。これによって、駅への苦情の減少などの直接効果も見られるほか、社員の意識向上などの効果も見られれている。
d) 結論
アンケートでは八割近いお客様からフリーアンサーが寄せられ、多くの声をサインが直接的にすることで問題意識を新たにし、社員自らの接遇のあり方、鉄道事業のあり方について考えるきっかけとなった。
今後は残る駅の案内設備改修及び要望の強い施設改修と並行して、更なる利用促進・混雑緩和の取り組みと、これらの定量的な評価・効果計測を行っていく。
キーワード:観光MM 鉄道利用促進 公共交通サービス水準改善
ID:PA-14 継続的なエコ通勤に向けた“エコ通勤支援サイト”の構築 |
花岡 嘉一 ((株)ライテック)
芝海 潤 ((株)ライテック)
高橋 正 (国土交通省関東運輸局交通環境部環境課)
谷口 守 (筑波大学大学院システム情報工学研究科)
さいたま市環境局環境共生部環境対策課
小田原市都市部都市政策課
a) 背景と目的
エコ通勤の促進を目的としたモビリティ・マネジメントの実施に関しては自治体や民間企業等のエコ通勤実施者にとって情報提供ツールの作成やコミュニティコミュニケーション・アンケートの配布・回収作業など様々な作業を必要としその負荷は非常に大きなものとなっており継続した取組を行うためには負担の軽減が必要とされている。そこでコミュニケーション・アンケートの実施に際して生じる負荷の軽減をすることができるWebによるエコ通勤支援システムを構築し、効果的・継続可能な情報提供や簡易なフィードバック機能のあり方について検討を行った。
b) プロジェクトの内容
さいたま市と小田原市の市役所職員約150人に協力を頂き2ヶ月半の実証実験を行った。
○継続的なエコ通勤に向け飽きさせない
「リアルタイムにCO2排出量やカロリーなどの効果をフィードバック」
○いつでも簡単に登録が可能
「毎日の通勤手段は1クリックで簡単入力」「Webのためどこでも登録可能」
○エコ通勤実施企業の負担削減
「複数の団体で利用が可能」「負担・コストの軽減」
c) 効果
実証実験で初期登録を済ませた利用者は約9割となりCO2削減量は約720kgとなった。また総合的な評価では「とても良い4%良い73%良くない21%全く良くない2%」となった。また当初8割あった参加率は日数を重ねる毎に減少していたが小田原市で個別アドバイスをメールで送付したところ参加率の一時的な回復がみられた。(数値は暫定値)
d) 結論
利用者の評価は良くさらに団体担当者の負荷軽減につながりWEB化による負荷削減効果が見られる。しかし開始より参加率は減少を続けているため利用定着に向けた検討は必要である。実証実験が終わった直後で集計中であるがその他にも特徴を持たせた機能等の評価について分析予定である。
キーワード:職場MM TFP HP開発 持続的なエコ通勤
ID:PA-15 「居住地検討段階」に対しても実施した転入者MM |
近藤 洋平 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))
筒井 康史 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))
a) 背景と目的
愛知県は、県民の移動に係る自動車の利用割合が7割と、東京圏の2割、大阪圏の4割に比べて高く、自動車に依存した交通体系になっており、地球温暖化、交通事故、渋滞及び中心市街地の空洞化といった様々な問題の一因ともなっている。こうした問題を解決するとともに、交通弱者の移動手段の確保、地域住民の健康づくり、活力ある地域づくりを実現するため、愛知県では、移動手段をかしこく使い分ける「エコモビリティ ライフ(エコモビ)」の普及、定着にかかる取組を推進している。
b) プロジェクトの内容
その取組の一環として、県内でも人口が増加しているリニモ沿線地域(日進市や長久手町等)を対象に、転入者MMを実施した。ここで「モビリティ・マネジメントの手引き」における転入者MMの対象は(2)役所窓口や(3)郵送配布等とされているが、これらはいずれも居住地決定後で、交通行動が確立されつつある段階と考えられる。そこで本事業では、リニモ沿線地域の不動産業者等に協力を依頼し、「(1)居住地検討段階」に対しても実施することとした。
c) 効果
実施形式としては、事業期間等の理由から、(1)(2)(3)すべてでワンショットTFPを採用した。その際に、調査票とともに、公共交通路線、カーシェアリング、ネットスーパー等、公共交通を前提とした生活に役立つ情報等を記載したマップを同封することで、公共交通沿線に居住地を選んでもらい、公共交通を前提とした生活になってもらうことを意図した。
d) 結論
事業期間が短く、アプローチによる意識啓発が主目的であったこと等から、(1)(2)に関しては、十分な回収数を得ることができなかったが、(1)は(2)(3)よりも意識転換に関する回答の割合が多かったことから、(1)によるアプローチ方法も有効である可能性が確認できた。
今後は、同種のアプローチ手法による検討を進め、「居住地検討段階」に対するMMの効果を詳細に把握していく必要がある。
キーワード:転入者MM 自動車保有転換 マップ作成 居住地検討段階
ID:PA-16 豊田市エコ通勤をすすめる会の取り組み |
山崎 基浩 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
柳 富美夫 (豊田市都市整備部交通政策課)
小田 康夫 (豊田商工会議所総務企画部)
伊豆原 浩二 (名古屋産業大学)
國定 精豪 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
加知 範康 (公益財団法人 豊田都市交通研究所)
西堀 泰英 (中央復建コンサルタンツ(株))
a) 背景と目的
愛知県豊田市では通勤時間帯の交通渋滞緩和を主な目的として、エコ通勤促進に務めている。「エコ通勤をすすめる会」は市内の事業所が自らエコ通勤促進の方策を検討するための情報交換の場として、あるいは官民協働による対策推進主体として機能することを目的に、平成20年12月に設立した。これまでに各事業所が通勤交通対策に取り組んできたが、平成22年度は、同会の取り組みを広め、エコ通勤への市民意識向上を目的に「ecommute(エコミュート)」という呼称の啓発活動を開始した。
b) プロジェクト内容
豊田市エコ通勤をすすめる会では設立以来、自社でエコ通勤を促進するための課題整理や会員間の共通認識醸成を行ってきた。平成22年度からはこれに加えて、広く一般に向けてエコ通勤の普及・啓発を図るために、「ecommute(エコミュート)」と称した企画を展開している。その内容は、ポスター、チラシの作成、小冊子の刊行、飲食店との共働によるPR、イベント会場でのノベリティ配布、ラジオCM、エコ通勤支援Webサイト設置などである。
c) 効果
エコ通勤をすすめる会は当初21事業所の参加で設立したが、その後、3事業所が追加加入した。自社内で具体的な通勤対策計画を策定し実施している事業所や、国土交通省のエコ通勤優良事業所認定に向けた申請を行っている事業所が出現しており、当初の目的を果たしている。エコミュートのPR効果は、今年度、評価のための調査を実施する予定である。
d) 結論
具体的な行動を起こす事業所の出現は本会設立の効果であるが、エコミュートを含め取り組み全体の定量的な評価を行うことが課題である。また、行動を起こす事業所と起こさない事業所との温度差が生まれている。そこで今年度は、エコミュート企画の継続展開に取り組みながら、会としての共通目標を設定し、個々の事業所の実態把握と進捗管理に力を入れる予定である。
キーワード:職場MM 渋滞対策 エコ通勤 MM実施主体の組織化
ID:PA-17 大阪市におけるEVカーシェアリング事業の展開 |
山東 信二 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
野口 浩 (大阪市計画調整局計画部)
木下 正浩 ((財)大阪市都市工学情報センター)
大西 康弘 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
神田 佑亮 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
佐藤 貴行 ((株)オリエンタルコンサルタンツ)
畝 俊介 (パーク24(株))
松本 淳 (パーク24(株))
間地 信夫 (パーク24(株))
秋田 剛児 ((株)マツダレンタカー)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
本取り組みは、大都市型の低炭素型交通システムの普及促進の一環として、EVを活用したカーシェアリングのモデル事業を通じて、カーシェアリング及びEVの普及に向けての課題把握や取り組むべき方策を検討することを目的に実施した。
b) プロジェクトの内容
大阪市内5箇所に無人ステーションとして各1台のEVを配備し、平成22年12月25日から約3ヶ月の間、カーシェアリング事業を実施した。車両運営は通常の利用料金15分200円にて実施した。ホームページやチラシ等による事業の周知や、EVとカーシェアリングの使い方等を体験できる説明会(体験会)を実施し、併せて効果把握のためのアンケート調査等を実施した。
c) 効果
(1)体験会来訪者の約半数の「以前クルマを持っていたが手放した」という人がEVカーシェアリングに関心を持った。
(2)公共交通との乗り継ぎ利用が多く見られた。
(3)カーシェアリングが充実すれば、体験会来訪者の約4割が「クルマを手放してもよい」と回答があった。
(4)EVカーシェアリングに対して、利用者のほとんどが今後も利用したい意向が強かった。
(5)EVについての運転操作の不安感(約3割)は低かった。
(6)広報誌等による行政の支援により、通常の民間営業だけでは反応しなかった市民が体験会に来られて利用者となった。また、広報誌等によるPRを含め、行政による普及促進の姿勢が明確に示されることにより、通常の民間営業だけでは反応しなかった市民や企業が興味を示すなど、利用者の増加につながった。
d) 結論
EVカーシェアリングの利用は、EVの航続距離の短さを前提した移動で利用されており、利用者の抵抗感は低かった。EVは車両価格がガソリン車の約3倍と高価で、リードタイムに制約があり車両運用の効率性がガソリン車より劣る。しかし、公共交通との連携した利用が見られるなど、今後は大阪市の交通体系として、より便利で環境負荷の小さい移動として普及促進が望まれるとともに、駐車スペースの削減による土地の効率的な利用も期待できる。
キーワード:地球温暖化対策 カーシェアリング 新モビリティ製品 態度・行動変容分析
ID:PA-18 日本一のバスシステムを目指すマーケティングの取り組み―京都らくなんエクスプレス(R’EX)― |
村尾 俊道 (京都大学大学院工学研究科低炭素都市圏政策ユニット)
中川 大 (京都大学大学院工学研究科)
松原 光也 (京都大学大学院工学研究科低炭素都市圏政策ユニット)
大庭 哲治 (京都大学大学院工学研究科)
松中 亮治 (京都大学工学研究科)
a) 背景と目的
京都らくなんエクスプレス(通称:R’EX)は京都駅と京都市南部のらくなん進都を直結する路線バスで平成22年11月から運行を開始した。これは京都大学低炭素都市圏政策ユニットが京都市、近畿運輸局、地元企業と連携し、高頻度の路線バス導入が、沿線の土地利用を活性化し、まちを変えることを実証する社会実験である。
b) プロジェクト内容
R’EX導入に当たって、京都市と京都大学低炭素都市圏政策ユニットが協働し協議会を立ち上げ、沿線企業や近畿運輸局と連携し、朝の6時台から夜の10時まで高頻度の路線バスを運行している。運行開始に当たっては、企業MMとして、コミュニケーションアンケート、ニュースレター発行、バス車両・バス停のデザイン戦略を実施した。
さらに、運行開始後は利用者とのワークショップ、バス運転手とのワークショップなどのマーケティングを行い、利用者ニーズを把握し、それらを一つずつ実現している。
c) 効果
これらの結果、運行開始から毎月の利用者数は半年後まで毎月増加し、当初の目標を達成し、さらなる路線の延長を模索している。
d) 結論
顧客満足を追求することは関係者全員の問題であり、顧客と何らかの関わりを持つ人全てが総掛かりでやるべき事である。必要なのはたんなる態度ではなく、行為である。
「これまでにない路線バスのモデルとなるバスシステムの構築」を目標に掲げ、利用者・バス運転手など、関係者がそれぞれに日々問い続ける活動の実践とその成果について報告する。
キーワード:職場MM 総合的なMM バス利用促進 マーケティング
ID:PA-19 「地域の現実」がバス利用意識の活性化に与える影響 |
伊地知 恭右 ((社)北海道開発技術センター)
関下 和裕 ((社)北海道開発技術センター)
原 文宏 ((社)北海道開発技術センター)
鈴木 哲 (八戸市都市整備部都市政策課)
a) 背景と目的
八戸市では、市営バスと民間バス事業者の連携によるダイヤ編成や、タクシー事業者との連携による乗合形式の新たな交通手段の導入、中心街を「青空バスターミナル」に見立てることで、バス利用促進とまちなかのにぎわいを同時に目指すなど、意欲的な取り組みを行ってきている。
ここでは、このような「ハードや仕組み」の改善に加え、H22年度にMMの知見を用いて行った住民アンケート調査結果を基に、「どのような情報がバス利用意識の活性化につながるのか」を分析した結果を報告する。
b) プロジェクトの内容
特定の補助対象路線の沿線住民を対象に、「行動プラン法」を用いたアンケート調査を行いバス利用の促進を図った。この際、行動プランを作成するための「時刻表」と「動機付冊子」を同封した。この冊子では、環境や健康などに関する情報に加え、八戸市におけるバス利用者数の変遷や、赤字補填に対する補助金額の情報「八戸市のバス事情」という項目を設けた。
c) 効果
パネル調査を行ったところ、11%の人が「バスの利用が増えた」と回答し、実際に直近1ヶ月のバス利用回数が(バス利用が増えたと回答していない人を含め)全回答者の平均で10%増加するという確実な利用促進効果が得られた。
さらに、「動機付冊子によるバス利用意識の変化」を分析したところ、「八戸市のバス事情」が「バス利用意識の活性化」を促すうえで有効な動機付けとなり、これまでの環境や健康などの情報に加えて、“地域の現実”が人々の意識に働きかける効果が大きい可能性が示された。
d) 結論
「八戸市のバス事情」というバス利用者の減少状況や補助金額の明示による“地域の現実”を提示することが、“我がまち”を考えるきっかけとなり、バス利用意識の活性化につながる可能性が示されたことから、今後は、“地域の現実”を見据えることをきっかけに、“公的な意識が働く場”を具現化する方途(たとえば地域住民と協働でバス支援策を検討するなど)を模索し、地に足の着いたより強固なバス利用促進策を検討していきたいと考える。
キーワード:居住者MM バス利用促進 態度・行動変容分析 動機付情報
ID:PA-20 平成22年度の当別町におけるMMの取り組み |
大井 元揮 ((社)北海道開発技術センター)
工藤 みゆき ((社)北海道開発技術センター)
鰐渕 真太郎 (当別町企画部企画課)
大石 和彦 (当別町企画部企画課)
原 文宏 ((社)北海道開発技術センター)
a) 背景と目的
地方においては、平成12年の需給調整規制の廃止以来、バス路線数及び運行便数は減少傾向にあり、バス交通サービスの維持が困難となっている。北海道石狩郡当別町では、民間送迎バスと自治体バスを一元的に管理し、路線・ダイヤの合理化・効率化を図ったコミュニティバス(当別ふれあいバス)を平成18年度4月より運行している。平成22年度においては、このコミュニティバスの利用促進を目的とし、バス祭りや大学生向けMM、住民向けニューズレターの発行、事業所向けMM等、様々な取り組みを実施した。本報告では、平成22年度に実施したMMに関連する取り組みについて報告する。
b) プロジェクトの内容
バス祭りでは、薪を燃料として走る「まき太郎」や日本ハムファイターズ選手の直筆サインが書かれたファイターズ号の試乗会を始め、ふれあいバス車両を用いてのバスの乗り方教室や交通すごろく大会などのイベントを実施した。また、大学生に対しては、新入生オリエンテーションにおいて、大学まで運行する路線の情報を掲載したリーフレットを提供した。さらに、町内の事業所に対しては、行動プラン法を実施した。
c) 効果
2カ年目の実施となったバス祭りにおいては、来場者数が平成21年度は2000人であったのに対し、平成22年度は、4000人と倍増し、さらに、今後の継続開催を望む声が数多く聞かれた。また、大学生を対象としたMMの効果としては、大学まで運行する路線の年間利用者数が平成21年度では、45087人であったのに対し、平成22年度では、49381人と4000人以上増加した。
d) 結論
ふれあいバスを通じたMMの実施が利用者数の改善等に対して有効に作用していることは明白であるが、バス祭りの開催等により、コミュニティの創造に対しても、有効に働いていることも実感している。持続可能な公共交通として、将来的にも事業を継続するために、今後もMM施策を多面的かつ積極的に推進していきたいと考えている。
キーワード:バス利用促進 コミュニティ・バス
ID:PA-21 ワークショップ型MM教育のための汎用ツール:宇部市ガリバーマップとその利用 |
鈴木 春菜 (山口大学大学院)
榊原 弘之 (山口大学大学院)
高橋 成次 (うべ交通まちづくり市民会議)
安部 信之介 (山口大学大学院)
松村 暢彦 (大阪大学大学院)
a) 背景と目的
MM教育においては、良質な教材によって効果向上が期待される。これまで、講義型MM教育では、数多くの汎用性が高い教材が開発されている。しかしながら、体験型・ワークショップ(WS)型MM教育の教材は、各取組で地域性を取り入れた教材が必要となるため、それぞれ開発されており、開発コストが高い状況である。本発表では、WS型MMの教材として、「ガリバーマップ」と使い方を提案する。ガリバーマップは、「ガリバーになったような気分になる」大きな地図であり、まちの問題点や魅力を抽出・取りまとめる目的で、まちづくりWS等で利用されてきた。しかし、紙に印刷されるため折畳むことが困難であり、マップに直接書込むWSが多いため複数回利用が難しく、作成コストが高いことがハードルとなっていた。
b) 宇部市ガリバーマップと特徴
宇部市ガリバーマップの最大の特徴は、耐久性のある化繊生地を用いた点である。貼ったテープ等を剥がすことができ、畳んで持ち運べるため、繰返し利用が可能となった。また、商業施設等の記載があり見慣れた地図情報であるGoogle mapを用いており、多様な用途が想定できる汎用性の高いツールとなった。
c) 利用例
1) 小学生対象のMM教育での利用
マップ上の日常生活で訪れる場所に、建物模型を置いていくWSを行った。模型の屋根の色を交通手段で分けることで、分担率やまちの構造を表した地図が完成した。クルマから公共交通への転換が可能な場所を違う屋根色の模型で置き換える作業によって、一人一人が行動を変えることの効果を視覚的に学んだ。
2)高校生のまちづくり教育での利用
マップに建物模型や付箋などを貼りつけ、居住地による通学手段の分布や通学路の危険個所の集積について、俯瞰的に学ぶ授業を行った。GISに類似した、一覧性のある空間情報としての利用可能性が示された。
いずれの事例でも、参加者の関与を経てボトムアップ的に地図が完成することにより、参加意識が高まる様子が観察された。
キーワード:学校教育MM まちづくり
ID:PB-22 小学校生活科及び社会科における交通環境学習(モビリティ・マネジメント教育)の可能性 |
岡本 英晃 (交通エコロジー・モビリティ財団)
全国的に交通環境学習(モビリティ・マネジメント教育)を実践例が増えてきているが、継続的に実施される学校は少ないのが現状である。
この原因としては、学習指導要領や教科書との関係があまり整理されておらず、学校教員が学習指導計画の中に盛り込むのが難しいことが挙げられる。本稿では生活科と社会科の学習と実施事例を対比させ、学校教育での交通環境学習の導入可能性について考察を行う。
交通エコロジー・モビリティ財団では、小学校において交通環境学習を実施する自治体に対する支援を行い、継続的に実施するための拠点作りに取り組むとともに、実施校の拡大や新たな教材事例の増加を図るため、学校への直接支援を行っている。これらの実践事例と学習指導要領とを対比させ、小学校の生活科及び社会科での実施可能性を整理した。
生活科の学習指導要領では、「公共物や公共施設を利用し、多様な人が係わっていることを知り、大切にし、正しく利用できるようにする」ことが目的とされているが、目的地に行くまでは公共交通機関を利用することが示唆されている。例えばここで乗車体験を実施する方法が挙げられる。
また34年生の社会科では、最初に身近な地域や市について学習する。そこでは交通の様子を調べることになっており、そこで路線図や時刻表を活用することが示唆されており、ここでも交通環境学習の実施の可能性がある。
このように、生活科や社会科では交通・運輸について学習する機会は数多くあり、現在各学校で実施されている授業を少しの工夫で交通環境学習を実施できる可能性がある。今後、他の教科や中学高校の学習指導要領を精査し、学習内容に合った教材等を提案することにより、実施校の拡大や継続的な実施が見込まれる。
キーワード:学校教育MM
ID:PB-23 バスネット:大学発バス経路探索システムの開発と進化 |
伊藤 昌毅 (鳥取大学 大学院工学研究科)
川村 尚生 (鳥取大学 大学院工学研究科)
菅原 一孔 (鳥取大学 大学院工学研究科)
バスネットは、鳥取大学が開発を続けている鳥取県の鉄道、バスを対象とした乗り換え経路探索サービスであり、5年以上運用しながら、研究開発を続けている。バスや鉄道の時刻表や乗り換え情報を得るために、現在毎月11万件の検索アクセスがあり、鳥取県の公共交通機関の利便性を高める重要なインフラとして認知が進んでいる。
バスネットには、県内全域のバス停やバス路線、バス時刻表データベース、さらに約一万件の商店や観光地、公共施設などのランドマーク情報が登録されている。これを利用して、任意のバス停やランドマーク間の最適乗り換え経路が検索できる。運用にあたっては、県内のバス事業者などと共同で日本トリップ有限責任事業組合を設立し、時刻表データベースの更新などを進めている。このため、イベント開催日の臨時便などを含めた、最新の経路データを利用したサービスが継続できている。
鳥取県では、モータリゼーションの進行や過疎化の進行などを背景にバス利用者が年々減少し、路線の廃止や本数の減少が続いている。バスネットは、こうした状況にあるバスの利便性を高めるために開発したシステムであり、並行して走る路線での最適な乗り換えや、離れたバス停間の徒歩での乗り換えなどといった複雑な条件にも対応した、高速で実用的な経路探索を実現している。現在、GPS付きスマートフォンによるバスロケーションシステムの開発や、遅れを考慮した経路探索の実現、ターミナル駅における大型ディスプレイを用いたインテリジェントバス停の開発など、最新の情報技術を活用したサービスを随時取り込みながら、継続的な研究開発を続けている。
本発表では、バスネットの技術や運用体制、現在の鳥取県における公共交通機関やバスネットの利用のされ方を紹介する。その上で、公共交通機関の利用を促進するサービスの今後のあり方を、情報技術分野における技術開発動向を紹介しながら議論する。
キーワード:地域公共交通活性化 公共交通サービス水準改善 公共交通情報システム開発 ITS
ID:PB-24 自治体、交通事業者の枠を超えた価値ある公共交通利用促進策『公共交通マップ』の完成! |
出利葉 洋臣 (久留米市都市建設部都市デザイン課)
a) 背景と目的
久留米広域定住自立圏(久留米市・大川市・小郡市・うきは市・大刀洗町・大木町)の中心市である久留米市では、市内の路線バスの乗降客数がここ5年間で約2割減少している。また、バス路線の廃止や利用環境の変化が進む一方で、平成10年以降、交通事業者から路線案内など情報提供はなされず、「わかりにくいから利用できない」、「交通マップがほしい」等の多くの声が交通事業者や行政に寄せられていた。
このような環境の下、各市町とも今後の公共交通の果たす役割とともに、その効果的な利用促進対策が喫緊の共通課題であった。
b) プロジェクトの内容
課題を分析する途上で、「バス利用をお願いする職員自身、バス路線がわからない」ことが判明し、誰もがわかるマップが必要という意識の共有から取り組みは始まった。「公共交通網の存在を知ってもらい、利用者により分かりやすく」を目的に、全交通事業者を掲載した『公共交通マップ』を作成し、圏域全世帯(17万6千世帯)配布に加え、観光案内所や交通事業者でも配布することで、より多くの市民に浸透を図っている。
c) 効果
各市町では移動方法に応じた公共交通マップへの価値観が高まり、多くの方から大変喜ばれている。その要因たるは、利用者、交通事業者、行政の誰もが、公共交通の現状を可視化できること、移動に即した公共交通ネットワークを描く上で、手軽なツールになることにあった。
d) 結論
これまで、単独自治体や交通事業者のみでは利用者のニーズに見合うマップづくりは難しかった。今般、定住自立圏の枠組みを活用したことで、利用者と交通事業者の間に行政が入るという環境が整い、交通事業者の全面的な協力も得られ、過去類を見ないマップが完成した。今後、今回の成功体験を活かし、公共交通ネットワークの再構築にも取り組んでいきたいと考えている。
キーワード:バス利用促進 鉄道利用促進 地域公共交通活性化 マップ作成
ID:PB-25 交通ゲームの開発と実践概要について |
永見 正行 (中央エンジニアリング(株))
坪内 恭史 ((株)イトーキ)
幡野 貴之 (名古屋大学)
平松 明子 (中外テクノス(株))
堀岡 整 (名古屋鉄道(株))
a) 背景と目的
市民の態度・行動変容には、「分かりやすく説明すること」が不可欠です。しかし、そのためのツールはまだ十分とは言えません。そこで、ツールの一つであるゲームを取り上げて開発・実践を行うことが目的としています。
b) プロジェクトの内容
開発した交通ゲームを用いて「小中学生向けの自由研究事例集」を作成する。
c) 効果
交通ゲームの新しい利用方法を実践できた。身近な交通について発見と学習を促すとともに、事例集の作成を通して、技術者自身が自らのコミュニケーションスキルを磨くことができた。
d) 結論
交通ゲームなどの素材を用いた自由研究は、事例集という形でまとめることで、小中学生とその親に、MMの意義を伝えることができる。また、技術者のコミュニケーション不足を補う。
キーワード:学校教育MM 自動車免許 自動車利用抑制 交通弱者
ID:PB-26 ドライバーへの働きかけによる交通安全支援プロジェクトの取り組み ~阪高SAFETYナビ~ |
新井 偉史 (阪神高速道路株式会社保全交通部)
北村 和寛 (阪神高速道路株式会社保全交通部)
北澤 俊彦 (阪神高速技研(株))
小澤 友記子 ((株)交通システム研究所)
大藤 武彦 ((株)交通システム研究所)
a) 背景と目的
阪神高速道路では、これまで主に事故多発地点に着目して施設、設備による対策を中心とした交通安全対策を実施し、相当の効果を上げてきたものの、なお年間に6千件の事故が発生しており、さらなる安全対策への取組みが必要とされた。事故要因分析からドライバーの属性要因が事故発生に大きく影響していることが分かったため、事故削減を目的として、ドライバーの安全運転を支援する取り組みを開始した。
b) プロジェクトの内容
交通心理学の知見に基づき、運転危険度を診断して情報を提供する「SAFETYドライブカウンセリング」、危険感受性とリスク察知力を高める「SAFETYドライブトレーニング」、利用経路における安全運転計画をおこなう「SAFETYドライブプランニング」など、一人ひとりに交通安全支援をおこなうプログラムを開発し、「阪高SAFETYナビ」プロジェクトを構築して、取り組みを開始した(2011年2月8日にサイトを公開.http://www.safetynavi.jp/)。
c) 効果
本格運用に向けたプログラムの精緻化を目的としてモニター調査を実施したところ、9割以上の方に興味を持って取組んでいただき、「定期的に取り組みたい」、「社内教育で活用したい」といった肯定的意見が多数を占め、「新しい安全情報を得られて良かった」、「あらためて交通安全意識を高める必要性を感じた」といった意見が寄せられた。また、運転危険度診断の結果からは、運転危険度と事故経験には関係があり、このような取り組みの有効性が示唆された。
d) 結論
モニター調査結果でプログラム改良への課題も明らかとなったため、プログラムの設問の精緻化、設問数の削減を行い、2011年2月8日にプロジェクトのサイトを一般公開してプログラムを公開した。今後は、広くドライバーに参加していただくためのキャンペーンを展開したり、会社や団体の交通安全教育ツールとして提供するなど、より多くのドライバーに取り組んでいただくための戦略的な展開をする予定である。
キーワード:交通安全 交通心理 ドライバー対象MM
ID:PB-27 京都府における職場モビリティ・マネジメントの継続的な取組について |
山本 信弘 (京都府建設交通部交通政策課)
山田 智史 (京都府建設交通部交通政策課)
東 徹 ((社)システム科学研究所)
酒井 弘 ((社)まち創生研究所)
a) 背景と目的
京都府では、府民参画・府民協働により、環境的に持続可能な、豊かな風格ある都市圏づくりを進めるため、平成17年に「交通需要マネジメント(TDM)施策推進プラン」を作成し、その取り組みの一つとして、モビリティ・マネジメント(MM)を実施している。本稿では、平成22年度に実施した職場MMの結果および過去の取組から得られた地域的傾向について報告する。
b) プロジェクト内容
平成17年度の宇治地区から始まり宇治地域で8千人、南丹地域では約4千人を対象に職場MMを進めてきた。さらに、平成22年度は、鉄道(JR山陰本線)の利便性が大きく向上した南丹市八木地域、比較的公共交通の利便性が高い一方で小規模な事業所が多い城陽市域において約3千人強を対象としてワンショットTFPを実施した。あわせて南丹地域においては、本年度の取組で作成したツールを地域の大学新入生へ展開を図った。
c) 効果
行動変容により、鉄道を中心とした公共交通への利用転換が認められるとともに、年500tのCO2削減効果が推計された。また、この取組が費用対効果の視点からも高い効果があることを確認した。
d) 結論
平成22年度の取組も含め、5年間の取組を総括的みると、近距離の通勤ではクルマ利用が多い、クルマを控える意向に地域差は少ないが公共交通を利用する意向は鉄道の利便性に因るところが大きい、また転換する割合が高い地域は鉄道利便性が高い地域でかつ移動が地域間にわたる場合、といった傾向を把握することができた。
平成23年度より、京都府地球温暖化対策条例において、エコ通勤の取組報告が義務づけられたが、これまでの結果も踏まえ、通勤交通における公共交通利用の在り方について議論を深めていきたい。
キーワード:職場MM 地球温暖化対策 鉄道利用促進 地域間比較
ID:PB-28 持続可能なコミュニティバス等導入に関する取り組み~さいたま市コミュニティバス等導入ガイドラインの策定を通じて~ |
金内 裕 (さいたま市都市局都市計画部都市交通課)
藤 泰久 (一般財団法人計量計画研究所)
高砂子 浩司 (一般財団法人計量計画研究所)
須永 大介 (一般財団法人計量計画研究所)
須永 大介 (交通ジャーナリスト)
a) 背景と目的
さいたま市では、「いつでも・どこでも・誰にでも利用しやすい公共交通」を実現するため、鉄道・路線バスとコミュニティバス等を組み合わせた、一体的な公共交通ネットワークの構築と提供を目指している。平成23年時点で、6路線のコミュニティバスを運行しており、運行が開始されてから着々と利用が伸びているが、運行改善を検討し、さらに収支率向上を図っていく必要がある。一方で、新たな路線の導入に対するニーズが数多く存在する状況にある。
b) プロジェクト内容
さいたま市は、平成22年度に、市民がコミュニティバス等の導入・改善を希望する際に、市民、市、事業者の3者が協働して、地域生活に役立ち、利用され続ける公共交通を検討するための手引き書として、「コミュニティバス等導入ガイドライン」を作成した。作成にあたっては、3種類のモデル実証実験を行い、コミュニティバス等の適切なサービス水準や、導入に向けた検討手順・内容について検証を行った。
c) 効果
3種類のモデル実証実験を通じ、市民、市、事業者が協働した検討手順・内容の構築を実現した。特に、コミュニティバス等の新規路線導入を行った地域(岩槻区和土地域)においては、地域の自治連合会が主体となって、開催セレモニーや車両への広告掲示等の取組を積極的に行うなど、新規路線の利用促進に向けた自発的な取り組みが行われるなどの成果を得た。あわせて、実証実験を通じ、既存の公共交通への影響が限定的であることが定量的に実証された。
d) 結論
モデル実証実験での検討成果を踏まえると、協働での検討の過程において、地域の市民に“Myバス”意識が醸成され、コミュニティバス等の利用の促進につながることが期待できると考える。
今後は、策定した「コミュニティバス等導入ガイドライン」に基づき市民、市、事業者の3者が協働して検討することにより、利用しやすく持続可能な公共交通の実現を目指す。
キーワード:バス利用促進 地域公共交通活性化 コミュニティ・バス 公共交通サービス水準改善
ID:PB-29 京都府における継続的な学校向けモビリティマネジメントの取組について |
小池 彩 (京都府建設交通部交通政策課)
山田 智史 (京都府建設交通部交通政策課)
仲尾 謙二 (京都府建設交通部交通政策課)
馬籠 智子 (京都府建設交通部交通政策課)
a) 背景と目的
京都府では環境的に持続可能な社会づくりを進めるための取組の一つとして、平成17年度から、小学生の公共交通の意識を育むとともにバスの利用促進を図る学校MMを実施してきた。平成19年度から継続している「バス・エコファミリー」は、平成22年度は実施地域の拡大した広域的な取組とし、併せて新規バスエコ実施地域において出前授業を実施し、施策導入のフォローアップを行った。
b) プロジェクト内容
大人と同乗の場合小学生2人迄無料になる「バス・エコファミリー」の22年度の取組については、11月の土日祝10日間に実施。実施地域を21年度の11市町(約90校)から22市町(約240校)へ拡大し、北近畿タンゴ鉄道でも利用可とすることで広域化した。また、昨年度から導入したチケット制に加え小学校名記入式としたことで詳しい分析の可能なデータを収集した。併せてこれまで府南部を中心に実施してきた出前授業を、バス・エコファミリーの新規実施地域である京丹後市の小学校で実施することで、効果的な公共交通の意識付けを図った。
c) 効果
チケットの集計結果等を分析したところ、10日間で2761グループの利用があり、そのうちクルマからの転換のエコチケットの利用は約46パーセントだった。地域別では、実施年数の長い地域ほどバス・エコファミリーの利用率が高くなる一方、クルマからの転換のエコチケットは全体の約6割が新規実施地域での利用だったことから、継続的な実施により取組が定着してきていることと、取組が新規利用のきっかけとなりうることがうかがえた。
d) 結論
今後は、直接的に公共交通を体験してもらう機会づくりのバス・エコファミリーの取組と、社会の中の公共交通について考える意識を育む機会である出前授業との実施時期等の組み合わせにより、更なる効率化と長期的な効果が得られるものと考えている。
キーワード:学校教育MM 地球温暖化対策 バス利用促進 エコファミリー
ID:PB-30 市営バスの利用促進の一環としてのモビリティ・マネジメント |
松田 孝之 (大阪市交通局総務部企画課)
伊藤 圭介 (大阪市交通局総務部企画課)
a) 背景と目的
大阪市営バスは、乗車人員の減少などにより慢性的に赤字が続き、非常に厳しい経営状況にあることから、市営バスのあり方そのものも含めた抜本的な検討を行い、将来にわたって安定したバスサービスを提供するため、平成22年3月に市営バス事業の改革プラン「アクションプラン」を策定した。現在、「アクションプラン」に基づき、徹底したコスト削減や増収対策の取組みを進めており、バス利用促進の一環として、バス路線の沿線地域を対象としたMMを実施した。
b) プロジェクトの内容
バスの利用促進を図ることを踏まえ、(1)需要(鉄道空白地等)の側面(2)供給(ダイヤ改正に伴う増便他)の側面(3)効果検証(利用者が適度に存在)の観点から、居住者を対象としたMMを都島区で、従業者を対象としたMMを大正区で実施した。いずれもTFPを実施(コミュニケーションアンケート、事後調査の計2回)し、通勤時と休日における交通行動変容の把握を行った。アンケートの回収数は、都島区で約1700人(12000世帯に配布)、大正区で約600人(約1600人に配布)であった。
c) 効果
コミュニケーションアンケートにより、いずれの区においても環境面や健康面などへの意識の向上が図られ、これまでクルマ利用していた方のうち、環境や健康に配慮した移動方法として、バスなどの公共交通を利用した方が、都島区では2~3割程度、大正区では1割程度、今後実践しようと思われている方が、いずれの区においても、3~4割程度存在する結果となった。
d) 結論
環境面や健康面などへの意識の向上が図られ、クルマ利用者がバスなどの公共交通を利用するなど、一定の効果が確認できた。さらに、環境や健康に配慮した移動方法を今後実践しようと考えている方などクルマ利用者の交通行動変容の潜在需要も確認できた。今回の結果を踏まえ、公共交通の利用促進を図るためのより効果的なMMに取組むことが重要であると考える。
キーワード:居住者MM バス利用促進 TFP 態度・行動変容分析
ID:PB-31 京都市外からの転入者を対象としたモビリティ・マネジメント |
酒井 弘 ((株)まち創生研究所)
永田 盛士 (京都市都市計画局 歩くまち京都推進室)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
本取り組みは、京都市が進める「歩くまち・京都」総合交通戦略における「スローライフ京都」の取組では、市民や来訪者がクルマに過度に依存することなく、公共交通や徒歩などにより快適に移動できるとともに「歩く」ことで、まちの魅力を享受し、快適で豊かな暮らしを実現することが望まれている。その実現に向けて、訴求効果が大きいと言われている転入者を対象とした「転入者モビリティ・マネジメント(MM)」を実施したものである。
b) プロジェクト内容
京都市の左京区、下京区、伏見区の各区役所窓口において、市外からの転入者に転入者MMツールを配布し、公共交通利用や徒歩・自転車による利用を促した。MMツールは、透明のフォルダーに「公共交通情報等を掲載したマップ」、「動機付け冊子」を封入したものであり、マップは各区の意向を反映して作成した。また、転入者MMの効果計測のため、MMツールの配布・非配布のそれぞれの期間にヒアリング調査(事前)を実施し、後日、アンケート調査(事後)を行った。
c) 効果
転入者MM実施の前後の交通手段別利用頻度を見ると、僅かであるがクルマ利用が減少し、公共交通利用の増加が確認された。さらに、徒歩・自転車による外出が大きく増加した。また、MMツールを配布した場合(実験群)の方が、配布しなかった場合(制御群)より、クルマ利用の抑制、公共交通利用の促進が図られた。
d) 結論
公共交通利用が増加したことに加えて、徒歩・自転車が大きく増加したことは、京都市が進める「歩くまち・京都」、「スローライフ京都」の取組に合致し、今後の継続的実施や他区での展開の有効性が確認できた。ただし、実施の継続や他区への展開については、それぞれの区役所の意向が重視されることから「スローライフ京都」取組の1つとして転入者MMの重要性を認識してらうことが必要である。
キーワード:転入者MM
ID:PB-32 京都市外からの転入者を対象としたモビリティ・マネジメント |
安部 信之介 (山口大学大学院)
鈴木 春菜 (山口大学大学院)
榊原 弘之 (山口大学大学院)
1999年に試行的なTFPが実施されて以来、国内各地の交通に関わる諸問題の解決のための実務的な取組が数多く行われ、多くの事例から一定の態度・行動変容効果が存在することが示されている。
MMはコミュニケーションによる人々の態度や意識にも働きかけるものであることから、その効果を保持するためには、持続的な取組が不可欠である。継続的な取組を実施するためには、組織や予算・人材管理など含めた総合的なマネジメントを行なう必要がある。そのような総合的マネジメントについては各地で取り組まれているところであるが、特に地方都市においては予算や組織運営などの制約から、取り組みを継続させることが困難であることも少なくないと考えられる。
そこで、本研究ではまず、既往文献やこれまでのJCOMMでの報告などからMMの事例を収集し、MMの継続状況について分析を行った。
収集された事例から、各市町村をMM継続都市と非継続都市、それ以外の都市に分類した。この分類を人口と比較した結果、人口が20万人以上の64都市では継続都市が41%、非継続都市が28%であるのに対し、 20万人以下の87都市では、継続都市が15%、非継続都市が40%であり、継続性が大幅に低下することが示された。
さらに、このような地方中小都市でのMMの継続年数に影響を及ぼす要因について実施内容、同時期に実施された各種施策やMMの実行主体に着目をして探索的に分析を行った、その結果、 MM実施時期と同時期に活プロやPT調査などが実施されている市町村において、MMが継続して実施される傾向が示された。また、MMの内容では、居住者対象者MMや教育MMに取り組んでいる都市ほど継続年数が高い傾向が示された。並行事業や居住者対象のMMなどにより、多様な主体による取組の機会が提供され、MMの継続に必要な経済的基盤の確保と多様な主体のマネジメントが促進されたのではないかと推察される。
キーワード:メタ分析 地域間比較
ID:PB-33 「クルマに頼りすぎない暮らし(スローライフ)」の実現を目指す「スローライフ京都」大作戦(プロジェクト)の取組 |
大路 健志 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
永田 盛士 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
三松 大祐 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
塩士 圭介 ((社)システム科学研究所)
a) 背景と目的
京都市では、平成22年1月に「歩くまち・京都」総合交通戦略を策定し、「既存公共交通」、「まちづくり」、「ライフスタイル」の3つの柱の相乗効果により、人と公共交通優先の「歩くまち・京都」の実現を目指している。
このうち、「ライフスタイル」の取組として、「クルマに頼りすぎない暮らし(スローライフ)」を目指し、市民や観光客の意識と行動に働きかける「スローライフ京都」大作戦(プロジェクト)を実施した。
b) プロジェクト内容
市内の鉄道・バスの路線を分かりやすく記載した「歩くまち・京都公共交通マップ」を作成し、「市民しんぶん」を活用して64万世帯に配布するとともに、ラジオやポスター等を通じて、一人ひとりが気軽に参加できる「スローライフ宣言」を募集した。
また、市内の鉄道・バスの主な観光路線を記載した「公共交通でまわる京都観光マップ」を作成し、宿泊客や観光地周辺の駐車場利用者に、マイカー以外での次回の来訪や市内移動を呼びかけた。
c) 効果
4000人以上から「スローライフ宣言」が寄せられ、一連の取組を通じた市民意識の変化に基づき、行動の変化を推計した結果、年間約74万トリップ(1人あたり年間約12トリップ)の自動車利用の削減効果が見込まれ、これによるCO2排出削減量は、年間約1400トンと試算された。
また、観光マップを受け取った駐車場利用者のアンケート結果からは、約8割が「分かり易い」と評価し、約3割~約8割に次回の京都への来訪手段を「クルマ以外」に変えようという意志が確認された。
d) 結論
「スローライフ京都」実現に向けて、市民、観光客向けの公共交通マップを作成するとともに、ラジオ、ポスター等を活用して、重層的・複合的に働きかけを行った。その結果、「スローライフ京都」実現に向けた賛同意識が醸成され、クルマからの転換意向が確認された。
今後は、意識を行動に結びつけるためのより効果的・効率的なコミュニケーション手法の検討や、作成したツールの継続活用に向けた事業者との連携策の検討が求められる。
キーワード:バス利用促進 鉄道利用促進 自動車利用抑制 マップ作成
ID:PB-34 山梨県のモビリティマネジメント実証実験の取り組みについて |
深澤 修一 (山梨県県土整備部都市計画課)
a) 背景と目的
山梨県県土整備部都市計画課では、パーソントリップ調査の結果、甲府都市圏における交通課題を解決する方策のひとつとして、MMが取り上げられた。平成21~22年度にかけ、実証実験を実施することとして、このため、MM研究会を立ち上げ、山梨大学佐々木教授に座長を依頼した。目的は、 1.渋滞緩和 2.公共交通利用促進 3.都市機能集約型都市形成への備え 4.CO2排出量削減 5.県民の健康増進である。
b) プロジェクトの内容
「MM研究会」で次のような方針を確認し、実施した。
1.渋滞緩和に最も効果的に働きかける施策として、所謂「エコ通勤」を選定。
2.方法は、広く県民に普及させることに主眼においた「コミュニケーションアンケート+フォローアンケート」とする。(紙媒体若しくは、WEB)
3.一般の事業所を対象として、公募を行い、庁内においても参加を呼びかけた。
c) 効果
平成22年度には、約7000人(企業約1795人、県職員65人、教員約5000人)を対象にアンケートを実施。この内、回答者
は、1918人。この中で、自動車での通勤者は、1462人。更にこの中で、自動車以外に転換意向のある人は、334人。(転換率22.8%)内訳は、徒歩・自転車への転換が245人、公共交通への転換が89人であり、想像以上の行動変容の意向が得られている。(最初のコミュニケーションアンケートで集計)
d) 結論
現在は、フォローアンケートを集計中である。今後はこれを基に実施計画を策定予定。この中で、それぞれの目的に対する数値目標を設定する。さらに全庁的な取り組みとしての、本格実施を目指す。
キーワード:職場MM まちづくり 渋滞対策 地球温暖化対策
ID:PB-35 総合交通政策推進のための実務者育成の実践―進化する再生塾・アフター再生塾がまちを変える― |
村尾 俊道 (NPO法人持続可能なまちと交通をめざす再生塾)
土井 勉 (京都大学大学院工学研究科)
正司 健一 (神戸大学大学院経営学研究科)
大藤 武彦 (交通システム研究所)
中川 大 (京都大学大学院工学研究科)
東 徹 ((社)システム科学研究所)
本田 豊 (兵庫県西宮土木事務所)
a) 背景と目的
NPO法人持続可能なまちと交通をめざす再生塾は都市交通分野の実務者(行政・地域・企業等)に問題解決に向けた理論を学び、実践の場の提供、まちづくりの支援を目的に平成19年度から活動を行っている。
実社会における課題解決には関係者相互の理解、個々の担当者のスキルアップが求められることから、互学互修を基本として、夢・ビジョンを共有するネットワークづりを行っている。
b) プロジェクトの内容
再生塾では、都市交通分野に携わる年限の短い実務者を対象とした基礎編(1日研修)、地方議員を対象としたセミナー(1日研修)、リアルプロジェクトを対象としたアドバンスドコース(5ヶ月)を実施している。
アドバンスドコースでは塾生が地域の課題の掘り起こし、改善・確信の提言を行っている。
c) 効果
アドバンスドコースにおける塾生の提言は塾での責任者への報告にとどまらず、鉄道事業者社内や地元を対象とした報告会につながり、提言内容が実現される事例もでてきている。
また、修了生のネットワークもでき、女子部を中心とした交流企画がいくつも展開されてきている。
d) 結論
・都市交通分野に携わる実務者が自らスキルアップを図る機会、関係者の事情や考えを知る相互理解の機会は限られており、学びと交流の場に対するニーズは極めて高い。
・実務者の学びは自らの気づきを基本としたものである必要があることから、互学互修のスタイルが求められる。
・リアルプロジェクトを対象とすることが塾生のみならず関係者に多くの気づきと成長の機会を与えている。
キーワード:総合的なMM 総合交通戦略 実務者育成
ID:PB-36 「八戸中心街ターミナルモビリティセンター」が有する可能性 |
伊地知 恭右 ((社)北海道開発技術センター)
関下 和裕 ((社)北海道開発技術センター)
原 文宏 ((社)北海道開発技術センター)
鈴木 哲 (八戸市都市整備部都市政策課交通政策グループ)
a) 背景と目的
八戸市では、路線バスの利用促進を目的に、H22年度から緊急雇用創出事業を活用してバスの情報や必要性などを様々な形で伝える「ミッショナリー(伝道者・宣教者)」と、高齢者や障がい者などのバス乗降支援を行う「アテンダント」を育成し、活動を展開してきた。
本発表では、同事業により中心街に設けられた「八戸中心街ターミナルモビリティセンター」が有する機能と、その可能性について報告する。
b) プロジェクトの内容
H22年10月にオープンした「モビセン」は、市内を運行する市営バス・民間バス事業者(2社)の情報を総合的に扱う「路線バス総合案内所」としての機能を持つ。窓口で、路線の時刻や経路検索、回数券の販売等を行うとともに、ミッショナリーとしてのアンケート調査、ニューズレターの発行、アテンダントとしてのバスへの乗車など幅広い活動を行っている。
c) 効果
オープン当初の10月は14.9人/日だった利用者は、半年後の3月には31.6人/日にまで増加し、特に東日本大震災直後には、バスの運行状況をはじめ交通に関する多様な問い合わせが殺到した。なお、震災時には、停電の最中スタッフが営業所に急行するなど、自力で運行情報を集め、「生の情報」を発信することに尽力し、その後もHPなどで各事業者の運行情報を随時更新するなどの対応を行った。
d) 結論
「モビセン」が継続的に運営されることを目指すには、多様な活動内容に応じた効果や有用性について適切に評価することが重要である。一方で、日々の実務における最重要事項は「スタッフ自身の成長(スキルアップ)」が「モビセンの成長(存在意義の確立)」に直結するという事実である。その「成長」を以って、バスに限らず様々な「モビリティ」に関する取り組みを行う「センター」と成り得たならば、あえて“評価”を与える必要もないほどの存在感を持ちうるであろう。
キーワード:バス利用促進
ID:PB-37 当別町におけるMM教育の実施-2カ年の実施事例に基づくMM手法の効果検証 |
大井 元揮 ((社)北海道開発技術センター)
工藤 みゆき ((社)北海道開発技術センター)
鰐渕 真太郎 (当別町企画部企画課)
大石 和彦 (当別町企画部企画課)
原 文宏 ((社)北海道開発技術センター)
a) 背景と目的
北海道石狩郡当別町では、民間送迎バスと自治体バスを一元的に管理し、路線・ダイヤの合理化・効率化を図ったコミュニティバス(当別ふれあいバス)を平成18年度4月より運行している。このコミュニティバスの利用促進、普及啓発、さらに、将来のドライバーとなりえる児童への意識啓発を目的とし、当別町内の小学校2校において、モビリティ・マネジメント(MM教育)を実施した。
b) プロジェクトの内容
当別町内の小学校2校(西当別小学校・当別小学校)において、MM教育を実践した。具体的には、平成21年度は、西当別小学校において交通日記を活用したアドヴァイス法を実施し、当別小学校においてバスマップを活用した行動プラン法による学習を実施した。一方、平成22年度は、当別小学校においてアドヴァイス法を実施し、西当別小学校において行動プラン法による学習を実施した。なお、両年度・両校において、授業実施から数日後にアンケート調査を行い、手法による意識変化を比較した。
c) 効果
アドヴァイス法と行動プラン法の手法の有効性を検証するために、「自動車利用抑制の行動意図」、「自動車利用抑制の知覚行動制御」、「環境に優しい移動の意識」、「徒歩・自転車利用の行動意図」、「バス利用の行動意図」の5つの心理指標についての平均値の差異を把握するt検定を実施した。結果として、「徒歩・自転車利用の行動意図」については、アドヴァイス法の方が行動プラン法よりも統計的にスコアが高く、一方、「バス利用の行動意図」については、行動プラン法の方がアドヴァイス法よりも統計的にスコアが高い結果であった。
d) 結論
本事例からバスの利用促進に対しては行動プラン法が有効であり、さらに、環境意識の向上に対しては、アドヴァイス法が有効であることが統計的に立証された。今後は、当別町において、毎年、継続的に学校MMを展開する方法を検討するとともに、より多くの教諭を巻き込んでいく仕組みづくりをすることが重要と考えられる。
キーワード:学校教育MM バス利用促進 コミュニティ・バス
ID:PB-38 札幌圏におけるモビリティ・マネジメントの取り組み |
大井 元揮 ((社)北海道開発技術センター)
新森 紀子 ((社)北海道開発技術センター)
原 文宏 ((社)北海道開発技術センター)
上村 達也 (前 国土交通省北海道開発局札幌開発建設部)
高野 伸栄 (北海道大学大学院)
a) 背景と目的
札幌市内の渋滞損失時間は、全道の約5割を占め、都市内交通の円滑化が喫緊の課題である。また、交通渋滞により過大に排出される自動車排出ガスについても、地球環境問題への影響があることから、削減が求められているところである。
以上の背景から、これまで、札幌都市圏においては、2000年度に地域住民を対象としたTFPの実証実験を先進的に行ったのを皮切りに、多種多様な取り組みを実施し、平成22年度においては、職場におけるMM及び札幌市内の小学校を対象としたMMを実践しているところである。本報告では、これら、平成22年度に実施した取り組みを報告する。
b) プロジェクトの内容
職場MMにおいては、道央都市圏パーソントリップ調査結果を用い、自動車による通勤が多く発生する地域を定量的に特定し、そのエリアに対し、TFPを実施した。さらに、本TFPの結果を用いて、札幌市全域に展開した場合の通勤交通の自動車から他の交通手段へ変化する量を推計した。
また、MM教育においては、札幌市版の交通すごろくを作成し、札幌市内の小学校の6年生を対象に授業実践を行った。
c) 効果
職場MMの結果としては、日常的なクルマ利用の割合が4%減少し、また、3割以上の方が実施期間中にクルマ以外の交通手段により通勤したことを確認した。また、札幌市内全域に実施した場合、約17500人の行動変容の可能性があることを確認した。
MM教育の結果としては、「環境意識」、「徒歩・自転車の行動意図」、「軌道系交通の行動意図」において、授業実践事前事後の変化が大きいことを確認した。
d) 結論
本取り組みの中で、職場向けの簡易な交通行動のCO2排出量数量化システムや職場を対象としたMMの手引き等を作成している。今後はこれらツールを用いた職場MMを展開し、その有効性や改良点についても明らかにしていきたいと考えている。また、MM教育においては、今後は、教育現場がプログラムに取り組みやすいよう、単元構成や指導案などの授業づくりの基本となる資料についても作成していきたいと考えている。
キーワード:職場MM 学校教育MM
ID:PB-39 行政と事業者の協力による長距離通学者の負担軽減と定期券の利便性向上によるバス利用促進 |
野田 悟 (国際興業株式会社 運輸事業部)
後藤 崇輔 (国際興業株式会社 運輸事業部)
a) 背景と目的
飯能市では旧名栗村方面を中心とする山間部に国際興業の長距離バス路線が展開。利用者は高校生の通学比率が高い。しかしながら、1年間(4月~3月)有効の大幅割引の通学定期券制度があっても、定期代の負担と紛失リスクからバス通学は敬遠される傾向にあり、自転車通学や自家用車による送迎が増加しつつあった。更には、高校入学を機に下宿する生徒や一家で転居する家庭もあり、バス利用減・沿線人口減を招いていた。そこで、飯能市と国際興業が連携し、長距離通学者を抱える家計に対して更なる支援策を検討した。
b) プロジェクトの内容
飯能市では、年10万円を超える市内バス通学定期代について、10万円以上の部分に関し1/2の比率で家計に支援。国際興業では「通学特別地区特殊定期券」を新設し、飯能営業所管内において年に4回の分割が出来るタイプの券種を新設。紛失時の家計負担を最小限化。
c) 効果
・通学輸送の「バス離れ」をある程度、食い止める事が出来た。その結果、不採算路線の維持・存続に寄与した。
・山間部からの若年人口の流出防止に寄与した。ひいては山間部の地域の活力維持に繋がった。
・高校生を抱える家計の経済的な負担軽減が図られた。
・マイカー送迎や自転車通学からバス通学へ転移する動機付けとなった。
d) 結論
過疎地の路線バスでは通学輸送は今後も重要だが、人口減への対応や路線経営が課題となっている。本件は、その両方を同時に解決しようとするものである。「住民、地域、行政、事業者の四方よし」の施策となった。
キーワード:学校教育MM バス利用促進 地域公共交通活性化 自動車利用抑制
ID:PB-40 タクシー駐停車マナー向上に向けたモビリティ・マネジメントの取組 |
田中 久光 ((社)システム科学研究所)
田中 均 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
金森 敦司 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
山崎 佳太 (京都市都市計画局歩くまち京都推進室)
金澤 重之 (国土交通省近畿運輸局京都運輸支局)
西川 孝秀 (国土交通省近畿運輸局京都運輸支局)
岩本 和彦 (京都府警察本部交通部交通指導課)
加藤 隆章 ((株)システム科学研究所)
藤井 聡 (京都大学大学院工学研究科)
a) 背景と目的
京都市では、持続可能な脱「クルマ中心」社会のモデル都市の形成を目指し、人と公共交通優先の「歩いて楽しいまちづくり」を推進している。その一環として、平成22年8月にタクシー業界団体及び関係行政機関の連携の下、「京都市タクシー駐停車マナー向上マネジメント会議」を設置し、駐停車禁止場所での違法な客待ち状態などを排除することで通行障害の解消を目指し、タクシー乗務員の自発的な駐停車マナー向上を図るためのMMを実施した。
b) プロジェクトの内容
四条通のタクシーの違法な駐停車の問題解決に向け、おもに京都市内を営業エリアとしている約12,000人のタクシー乗務員に対して、駐停車マナー向上のきっかけとなる情報提供やコミュニケーション等を行うこととともに、タクシー利用者やタクシー乗務員に対して駐停車マナー向上及び乗降マナー向上を図るための啓発運動(街頭パレードの実施、啓発物品配布、タクシー乗り場への誘導案内の設置等)を施した。
c) 効果
四条通でのタクシー乗り場以外での客待ち行為について、全ドライバーの内、客待ち行為を行っている方が34.9%おり、そのうち、客待ち行為を控えると答えた方が94.3%となった。また回答いただいた、全ドライバーのうち94.2%の方がこの行為について解決すべき問題と認識している。
d) 結論
本取組により、タクシードライバーの意識変容、行動変容の様子が確認された。また、「タクシー業界団体」という「組織」を通じた働きかけを行ったため、個々のタクシードライバーへの情報到達率が高く、効率的なコミュニケーションを図ることができた。
キーワード:渋滞対策 TFP 態度・行動変容分析 タクシーMM