京都大学大学院工学研究科 助教 中尾聡史
平成31年に池袋で発生した高齢者ドライバーによる死亡事故は世論に大きな影響を与え、高齢者に対して運転免許証の自主返納を迫るような意見がSNS等で数多く見受けられるようになりました。全国の自治体でも、運転免許証を自主返納した高齢者に対して、公共交通のチケットを配布するなどの支援が様々に行われています。一方で、免許返納後に、うつ病や要介護認定のリスクが高まることも明らかにされてきています。運転免許を返納するかしないかの選択は、まさに健康リスクを受け入れるか、交通事故リスクを受け入れるかの選択であり、高齢者はどちらかのリスクを選ばなければならないジレンマ状況に直面していると言えます。では、この運転免許返納ジレンマをどのように解消していけばよいのでしょうか。
そもそも、なぜ運転免許の返納後に、健康リスクが高まるのでしょうか。ある研究では、運転免許を返納した高齢者が、公共交通を利用できる地域に住んでいるにも関わらず、その利用習慣がないことから公共交通を利用できずに、外出機会が減少しているケースが報告されています。他にも、高齢になるほど交通行動の変容が難しいことや、免許返納前の運転頻度が高い人ほど返納後の移動に困っていることが分かってきています。これらの知見を総合すると、マイカーに依存していた高齢者は、免許返納後に公共交通を利用できずに、外出機会が減少し、健康リスクが高まっていることが見えてきます。
つまり、この免許返納後の健康リスクを低減するには、マイカーだけに依存するのではなく、多様な移動手段に早い段階から慣れておくことが大切です。運転免許を自主返納するケースもありますが、認知機能検査にパスできずに予期せぬ形で突然、運転免許を手放さなければならないケースもあります。いざという時のために、今から移動手段の多様性を確保し、移動のレジリエンスを高めておくことが重要と言えるでしょう。そのことはまさに、「過度に自動車に頼る状態」から「公共交通や徒歩などを含めた多様な交通手段を適度に(=かしこく)利用する状態」へと自発的に転換することを促す、モビリティ・マネジメントそのものです。運転免許返納ジレンマの解消に向けて、「危険だから返納しよう」ではなく、「将来の自分のためにも今から“準備運動”しておきましょう」というコミュニケーションへの転換を図っていくことが必要と考えています。
そこで、国土交通省北海道開発局札幌開発建設部とともにマンガ冊子「今からはじめる!おでかけの準備運動のススメ」を作成しました。様々な地域で当該マンガ冊子をご活用いただければと考えていますので、使用を検討されている方は下記のフォームにご記入ください。また、本内容は研究の一環として取り組んでいるものであり、第19回JCOMMにて発表を行いました(ポスター・口頭発表) 。ぜひあらゆる実践に活用していただければ幸いです。
マンガ冊子(札幌市で活用の例)
←画像をクリックすると冊子が表示されます(PDFはこちら)。
パワポ版冊子のダウンロード
どの地域でも使えるようなパワーポイント版も作成しました。ご利用を希望の方は、以下のリンクから必要事項を記入の上、ダウンロードしてご自由にご活用ください。
冊子(PDF)では最終ページに札幌市の公共交通の情報を載せていますが、パワポ版ではご自由に情報を掲載いただけます。「発行者」の記入欄もございますので、それぞれの地域・企業のお名前をご記入ください。
不明な点があればJCOMM事務局(info@jcomm.or.jp)までお問い合わせください。
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